神様 2011
神様 2011 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
初出が「群像」の2011年6月号だから、原発事故後の早い時期に書かれた。あえて自身が以前に書いた「神様」と重ねたのは、作家の希求するものが、穏やかな日常空間だからだろう。「神様2011」でも、彼等の日常生活は一見、何も変わらなかったかのように続いている。そして作家は、そこにこそ根源的な恐怖の深淵を垣間見る。もはや永久に戻らない日常に対する作家の怒りと、どうしても自分なりに書いておかなければならないのだという使命感とが、この小説を書かせた。ややストレートに過ぎるが、これが川上弘美の作家的誠意なのだろう。
2014/12/08
さてさて
『「あのこと」の前は、川辺ではいつもたくさんの人が泳いだり釣りをしたりしていたし、家族づれも多かった。今は、この地域には、子供は一人もいない』。『あのこと』によって崩れ去った私たちの平穏な日常を、デビュー作の「神様」を元にした物語で淡々と描くこの作品。そこには、『あのこと』がもたらした現実を思う物語が描かれていました。川上さんの巧みな足し算、引き算に感心するこの作品。そんな物語に『くま』の存在感が絶妙なさじ加減を見せるこの作品。『あのこと』の意味を問う物語の中に、川上さんの”静かな怒り”を見た作品でした。
2024/08/10
hiro
『神様2011』を図書館で借りて、今日一日で『神様』と『神様2011』を続けて読んだので、今日「神様」を3回読んだことになる。2011年3月末に書かれた「神様2011」は、「神様」のパラレルワールドであるが、あの事故によってほのぼのとした「神様」とはまったく別の印象をうける作品となっていた。そこに川上弘美さんの悲しみと怒りを感じた。
2015/02/14
風眠
3月11日晴れ。黙祷の時間になっても、何を祈ればいいのかわかんないし、何を思っても嘘くさくなっちゃうし、何日かぶりでスンと晴れ渡った空を見ていた。言葉にならないいろんなこと、掻きむしるみたいにピアノを弾いた。自分をなだめるみたいに音を重ねた。空が暮れ色に染まって、そして読む。今日だからあえて読みかえす。『神様2011』ビリビリビリビリって、こころが震えた。
2013/03/11
buchipanda3
「神様」ふたたび。「あのこと」(2011年の原発事故)を受けて、著者がデビュー作を自らリライトしたもの。くまとの散歩というどこか不思議な光景があのことによって変わってしまった。事故を想起させる表現が淡々と唐突に現れてドキッとなる。周りの人間のセリフや様々な場面も印象が違うものに。元々、日常の陰にある切なさを感じさせる物語だったが、それは別の哀しさに包まれたものになっていた。あとがきを読み、変更箇所を敢えて淡々とした文章で書いた中に著者のぶれない強い思いが感じられ、その思いを胸に受け止めた。
2020/03/01
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