燃焼のための習作
燃焼のための習作 / 感想・レビュー
しゃが
小劇場で3人だけの大人の芝居を観ているような不思議な心地だった。ストーリーも感想も伝えることがむずかしい、まさに堀江さんの世界観。古いビルのある調査事務所を男性が訪れ、調査員と助手の若い女性と3人の時間がはじまる、雷雨がやむまで…。依頼は何なのか、会話が時系列も内容も連綿と続いたり、途切れたり、終わりが見えない。「記憶の洞穴学」に心を奪われた、記憶は他者の記憶の縦穴や横穴ともつながった複雑な坑道からできているらしく、人の歩んだ時間を聴くことで、じぶんの深層の記憶の声をきくことがあること。表紙も秀逸。
2018/10/29
クリママ
運河の横の築40年のビルの一室。次第に激しくなる雨風、雷。枕木という男、その客と後から登場する女性事務員の3人。「」のない会話。あちこちに飛んではまた戻ってくるとりとめのない話。舞台劇を見ているような、はたまた自分が4人目になってそこにいるような。何杯コーヒーを飲んだのだろう。ふと見れば、本の上につけてしまったシミ。持ってくるときに揺れて伝ったコーヒーがマグの底の形になって滲んだ。
2018/06/03
そうたそ
★★☆☆☆ 探偵と助手と依頼人。密室にておこなわれる三者のとめどのない会話。とりとめのない会話はあちらこちらへと脱線し、本題が何だったのか忘れてしまうほど思いも寄らぬところへと広がっていったり、また戻ったりの繰り返しである。中身の無いような会話が紡がれているあたりは、ある意味では極めて日常に密接した描かれ方がされているのかもしれない。会話の中身、というよりも堀江さんの文章に引き込まれていくような読書だった。その一方で、やはりこの平坦さが多少肌に合わないとも感じた。まさに「習作」のような実験的作品。
2016/01/19
そのとき
河の流れのように絶え間なく流れる時間と会話の中で、何が本筋なのかそれに関係してくるのかこないのか、分からない用件がだだ流されてくる。しかしその流れの中に、堀江さんの言いたいことがたくさん見つけられた。こういう文章を我慢強く読み進めること、じっくりとのんびりと構えて、熟考する必要はないけれど、全てを漏れなく自分の中を透過させること、そういうことが必要だと思うよ。っという気持ちを受け止めた。
2019/11/01
ハルト
つらなる言葉、心地よくたゆうように続く話。嵐の日、探偵事務所に訪れた客と探偵とその助手の女性との、とりとめがないようなあるような、終着点の見えない会話。三人それぞれからもたらされる話の気流に、流れ漂い混ざり合う。穏やかな日常のひとコマ。思い出を語るときのような、不思議と包みこまれるような慕わしさ。やわらかな空気。なんでもないことのなかにドラマはあり、時に研磨され人の口で語られることによって、やさしくなつかしく愛おしいものとなり、より心に沁みていく。昔はこうして家族の記憶が共有されていたのかな。よかった。
2012/07/13
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