七緒のために
七緒のために / 感想・レビュー
有
渦中にいるときには気が付けない。この頃の私も、自分の痛みには敏感なのに、他人を無自覚に傷付けていた。七緒と同じ歳だったら、彼女の抱えるものの一欠片もわからなかっただろう。どうして嘘をつかなければいけないのか、それを知って何が出来るのか。傷付け合って共に落ちたい訳じゃない、正義感を押し付け優位に立ちたい訳じゃない、伝わらない思い。ただ同じ目線で、同じものを見たいだけなのに。苦悩へ押し入られる苦しみと、苦悩へ押し入る苦しみは等しいと水の花火で語られるがそれでも、耐えられず途切れる儚さが今、ここに渦巻いている。
2013/03/08
うしこ@灯れ松明の火(文庫フリークさんに賛同)
女子高から共学に編入してきた雪子は七緒という少女と仲良くなった「七緒のために」。結婚した姉が夏休みに姪を連れて帰省した「水の花火」。全2話。この本のことを一言で表すのはとても難しい。ただ何かにひどく囚われていて、その呪縛から逃れられない感じ。もし思春期の時にこの本と出会っていたら、何だかグルグルしてしまいそうです。「七緒」はとても痛々しくて読んでいてとても辛い。でも最後まで読んでしまう不思議な話でした。「水」の方が私好みの話かな。話の雰囲気が好き。★★★★
2013/02/06
chiru
このテーマは『よく知ってる世界』だからか、感想が難しいです。 主人公たちは、他者の視線を意識して、残酷にも最低にもなり、傷ついても傷を隠す普通の10代の女子。 脆くて壊れそうな友情をつなぎとめるため、エネルギーを『嘘』に費やす子って必ずクラスにいました。 友情も恋愛も、惹きあう関係に『理由』が介在しないのが本物だと思うし、嘘つきだから惹かれなくなるというのも違う。 孤独とその本質に気付く主人公が成長する姿に感動しました。 ★3
2018/02/19
ひめありす@灯れ松明の火
七緒、貴方は今何処にいますか。七緒という美しい名は捨て、只の凡俗な女になり下がってしまったのでしょうか。あの十四歳限定ともいう病。嘘をつき虚言で身を堅め、そしてその嘘ごと貴方を受け入れ、疎みながら、呪いながら、それでも寄り添わなくてはなくては生きてゆけなかったあの日々。貴方の偽りを花びらをのように一枚一枚毟り取り、踏みつけたとしてもそこには何も存在しない。嘘があっての貴方だったと、絶望的な痛みと喪失感の中に思い知る。今は独りで歩む広い鏡面、足元の影に貴方の姿をふっと見つける。七緒の為、と嘯く私の為の嘘を。
2013/04/02
おかむー
男性との愛憎に翻弄され傷ついてゆくいつもの島本理生とはちょっと毛色の違った、女同士の友情を軸とした二篇の物語(愛憎もあるけどね)。『よくできました』。痛々しく孤立する七緒の視点ではなく、その友人・雪子の視点からの描写が新鮮かと思いきや、次第に雪子自身の虚ろさや痛みも現わになる表題作は、終盤で意味合いが掴めない含みのある描写がちと難解。『水の花火』は傷を負い、惑いながらも島本作品にしては比較的穏やかな結末。というか猫を出してしまったらさすがの島本節も柔らかくならざるをえなかったのか(笑)
2015/02/27
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