少年口伝隊一九四五
少年口伝隊一九四五 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
国民学校の6年生(英彦、正夫、勝利)3人を軸にヒロシマを語る。スタイルは戯曲と散文の中間的な趣き。実際に舞台で演じることも可能だが、むしろ朗読劇に相応しいか。ヒロシマを描いた井上芝居では『父と暮らせば』が名高いが、あの作品では被爆体験を描きつつも、そこに軽妙洒脱な明るさを漂わせていた。もちろん、それこそはヒロシマの希望だったのだが。一方、本作はより深刻でリアルな現実に向き合う形を取る。広島方言(しかも当時の)、比治山をはじめとした土地鑑ともに徹底した調査の元に書かれていることを如実にうかがわせる。
2022/06/04
新地学@児童書病発動中
井上ひさし氏による朗読劇。原爆投下直後の広島の悲惨な状況を少年の視点から分かりやすく描いている。悲惨というより凄惨、地獄と言ったほうが良いかもしれない。原爆によって新聞が発行できなくなり、口伝でニュースを伝えたことは初めて知った。それから原爆投下後の約1ヶ月後に台風が来て、多くの人が亡くなったことも知らなかった。私の場合、広島の原爆についての知識は浅いことがよく分かった。こんな本をこれからも読んで深める必要があると思う。それが被爆国に生まれた日本人の務めだという気がした。
2014/01/11
さらば火野正平・寺
今年もまた原爆記念日が近づいた。晩年広島ものの芝居が好評を博した井上ひさしが書いた話を少年向けにした絵本。徹底的な方言など、さすが井上ひさし、惨劇の数々の描写など、さすが上手いと思うものがある。淡々と原爆投下の詳細を描く。生き残った三人の少年が、新聞印刷不能な為に中国新聞社が結成した口伝隊の手伝いをする。その過程に出て来るあらゆる批判がもっともである。そして意外と知られていない、被爆後の広島を襲った自然災害・枕崎台風の被害も描かれる。そして哲学じいさんの、子供達への願い。一読の価値あり。
2015/07/28
ルピナスさん
広島は街の中心部でも山と川と海の全てを感じることができる、とても美しい私の故郷。だから、幼い頃から沢山の平和学習を受け育ったが、原爆前に空襲がなかった理由を米大統領が「(無傷にしておいて一発の原爆にどれだけ威力があるかを知るために)空襲の処女地で原爆の威力を見たいのですよ」と英首相に伝えるシーン等、悔しくて涙が堪えられなかった。原爆の僅か1か月半後の台風で更に数千人が亡くなったのは余り知られていない事実。口伝隊の少年達も原爆症は逃れられなかったが、亡くなった子供達の分も戦争の終わった世界で生きて欲しかった
2022/07/08
けんとまん1007
「広島」が「HIROSIMA」になった日とその後。その後について語られていないことが、いかにたくさんあるのかを考える。人は、それぞれの立場で、いかに違うことを発するのかを痛感する。また、自然の猛威ということも、考える。井上ひさしさんの文章だけでなく、ヒラノトシユキさんの絵が、心に迫ってくる。まさに、今、手に取るべき1冊。戦争は、何も得るものがないこと、自然の猛威や人災からの復興などと、軽々しく言えないということ。
2022/05/06
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