献灯使
献灯使 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作の中編小説が1篇と短編が3つ+コント風の戯曲1篇とからなる。いずれも原発事故後の日本を舞台にした近未来小説。ただし、SFの手法は取らず、寓話風の作品に仕立てている。この作家のプロットを排した純粋小説の系譜には属さず、趣きはむしろ「犬婿入り」に近いか。物語の軸を背負うのは最初は義郎だが、いつの間にか曾孫の無名にスライドして行くが、そこに託すべき未来はもはやない。語りは明るさを装いつつ、その実は救いのないディストピア小説だ。作家、多和田葉子の、震災と原発事故にもがき苦しむ姿がここにはあるようだ。
2014/11/29
鉄之助
不思議な表紙。『献灯使』の結末も不思議。近未来の日本が舞台のようで、70歳半ばでも「若い老人」、主人公は115歳。「雑草という草はない」という昭和天皇の言葉など、妙に心に響く一節が所々に散りばめられているが、全体的には、やっぱり「不思議」。消化するには、しばらく時間がかかりそうだ。
2019/01/15
KAZOO
多和田さんの著作は時たま読んでいるのですが、いつも言葉の使い方にうならされます。やはり海外に住まわれているといつも日本語を書くときにはかなり注意されているのでしょうね。私などは書きなぐる感じでいつもミスをしてしまいますが。この5編の短篇を収めた作品集は、日本の未来を暗示するような感じですが物語としては私はかなり興味深く読みました。今後も多和田さんの作品を読んでいこうと思っています。
2017/01/11
kazi
多和田葉子さんの小説読むのは初めてです。この作品、全米図書賞の翻訳文学部門を取ったんですよね~。ディストピア小説というジャンルに入れてよかったかしら?放射能汚染の影響だと思うのだが、老人は死ねなくなり若者は体力を喪失した日本で、なんとか生きていこうとする人々の姿が痛々しいです。若者たちが苦しむという概念を喪失させているという設定に衝撃受けた。この若者と老人というのは、少子高齢化が進む現代日本に住む我々にとって今日的なテーマなのかも。鎖国、外来語の禁止、電力の喪失、土壌汚染。未来への決定的な影響は、
2020/11/03
藤月はな(灯れ松明の火)
ポスト3,11短編集。地震による放射能汚染と津波によって日本人の資本・物質社会は崩壊し、鎖国され、老人は死ぬ能力を、鳥のような風貌になった若者は健康に生きる能力を奪われた日本での人々の生き様。表題作はなぜか文章がツルツルと滑ってしまいました。最後には『恐ろしきフィルの時代』みたいに人間は取り替え可能なボディになったのかな。対してフォントを工夫した言葉遊びが楽しく、レズビアン小説でもある「韋駄天どこまでも」と芝居として人間文明への皮肉と人間へ痛烈な問を投げかける動物達を描写した「動物たちのバベル」が好きです
2017/01/31
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