琥珀のまたたき
琥珀のまたたき / 感想・レビュー
ヴェネツィア
生きていくことの哀しみを、これほどまでに鮮やかに、しかもこれほどにも密やかな形式で詠った物語を知らない。塀を隔てて、外界とは隔絶した小さな世界の物語。そこは、オパール、琥珀、瑪瑙、母、そして名前のない妹とで綴られる結晶世界だった。残された図鑑だけをよすがに空想が拡がり、そして囁くように語られる物語。小川洋子さんのもっとも得意とする、そして読者にとってはきわめて贅沢な物語の王国がここにはある。これは、失われた空間、失われた時間を語る物語なのだ。
2015/09/18
starbro
小川洋子は新作を楽しみにしている作家の一人です。不可思議な小川洋子ワールド堪能しました。図鑑で結びついた家族は、図鑑という閉ざされた世界でないと上手に生きていけないのかも知れません。オリンピックごっこ、事情ごっととシュールな世界は大変魅力的です。それにしても亡くなった妹の名前、3人の子供の以前の名前が気になります。オパール、琥珀、瑪瑙ほど個性的な名前ではないんでしょうネ!
2015/10/14
風眠
末娘の死を受け入れられず、子ども達を道連れに自らの美しい夢に逃げた母親。「壁の外には出られません」三姉弟に言い渡された禁止事項。過去も未来も無い監禁状態の家で三姉弟に与えられた新たな名前は、オパール、琥珀、そして瑪瑙。壁の内側の独自の世界。そしてある日、琥珀の左目に妹が宿る。ぱらぱらとめくる図鑑の余白に琥珀は妹を描き写す。またたきのような一瞬の中で妹は永遠になる。そして6年8ヶ月、夢は終わった。家を出たオパール、首を吊った母親、救出された琥珀と瑪瑙。どんな事情があったのかは不明。静けさの余韻だけを残して。
2016/01/23
ナイスネイチャ
図書館本。独特の世界観。これが小川洋子さんの世界観なのか?子供の名前を石に変えて呼び合うなにか意味を持たしていたのでしょうか?物語も静かに進んでいきますがぶれない芯のある人物達が世界を作ってました。琥珀以外の二人はその後どうなったんでしょう?想像力掻き立てる作品でした。
2016/02/11
めろんラブ
極私的「完璧本」ジャンルに分類される作品に出逢えました。閉塞感のある舞台設定からは想像もできない物語世界の広がり。緊迫と狂気の気配を帯びながら、清らかさや健やかさを感じさせる筆致。何より人物の造形が鮮やかで、琥珀という名を得た主人公の、その名ゆえの宿命には鳥肌。名久井直子さんの手による装幀も含め、やはり私にとっての完璧本です。小説は、どこまでも広く深く、際限のない豊かな芸術であると改めて信じさせてくれる一冊でした。
2015/11/04
感想・レビューをもっと見る