白い衝動
白い衝動 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
呉勝浩は初読。犯罪とカウンセリングを俎上に乗せたテーマ設定はいたって今日的だ。しかも新任のカウンセラー千早を主人公(視点人物)として置いたことは、彼女の持つ迷いや躊躇いを読者が共にすることで、一元的な価値観を押し付けることから作品をうまく開放しているといえる。さらには、その語りの巧みさから物語のサスペンス性を最初から最後まで保ち得ている。終盤の展開や収め方もなかなか堂に入った練達の書き手である。もう少しこの人のものを読んでみようという気にさせるに十分な作家、作品だった。
2022/07/15
🐾Yoko Omoto🐾
精神鑑定を伴うような殺人、またそれに類する凶悪犯罪を過去に犯した人間が、身近に住んでいるとしたら、それを寛容に受け入れることが出来るのか否か。普通と異常の境界線は誰の目にも見えない曖昧なもの。その概念すら明確なものではなく、それ以前に他人の精神構造を真に理解することは不可能に近い。ましてや理由なき殺人衝動など、理解しろと言われておいそれと出来るものでもない。刑期を終えた犯罪者を心から受け入れる世の中であるべきだという理想と、今後絶対にゼロとは言い切れない再犯の可能性を憂慮し、恐怖と排斥に傾く現実。➡(続)
2017/03/12
いつでも母さん
何故人を殺してはいけないのかー人と動物の違いは何?全てが一件落着した感でいつもの日々が戻って来たのにあの音で、千早は又手のひらに爪を食い込ませる・・犯罪加害者が刑を終え自分のすぐそばに住んでいたら、まわりの住民の気持ちは分かる。そして加害者親族の気持ちも理解できる。学校で人を殺してみたいと云う男子生徒の衝動を、あきらめるような沢山の幸せがこの先にあるといいな。いつも人間は厳しい。他人を糾弾することは容易い。千早を通して自分の心を覗いているような読書になった。しかし、あの子だったのかぁ・・
2017/03/01
パトラッシュ
すぐ隣の異質者の排除を図るのは憲法13条「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り(略)最大の尊重を必要とする」と矛盾するのか。殺人衝動に駆られる少年、罪を償ったはずの凶悪犯罪者、彼を追い詰める被害者の伯父。彼らすべてに関りを持ってしまったカウンセラーの千早が、家庭不和を抱えて最終的な破局を食い止めようと奔走する姿が痛々しい。コロナ禍で不安と不満が蓄積され、ふとしたきっかけで爆発する事例が伝えられている昨今だけに強く考えさせられる。「我々はどこまで他者を容認できるのか」
2020/07/03
miww
スクールカウンセラーの千早の元に訪れた高校生が「ぼくは人を殺してみたい」と衝撃の告白。この子の「衝動」をどう受け止めるのか。残忍な犯行を行い刑期を終えて世間に戻ってきた男の処遇。自分のそばで凶悪犯が生活する事が受け入れられるのか?リンクしながら物語は進む。心理学的、倫理的な議論は興味深かったが、犯罪者でも受け入れるという千早の考えは理想論かな。すごく考えさせられた難しいテーマでした。
2017/04/04
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