濡れた心,異郷の帆 (文庫コレクション大衆文学館 た 4-1)
濡れた心,異郷の帆 (文庫コレクション大衆文学館 た 4-1) / 感想・レビュー
ふじさん
耽美的な同性愛の世界に揺蕩う少女達へと忍び寄る、劣情の影と殺人を描いた第四回江戸川乱歩賞受賞作『濡れた心』。鎖された出島という異空間に、現代日本にも通ずる幕末の閉塞感を仮託した『異郷の帆』。滋味深い長篇ミステリ二作を纏めたベスト版。著者は初読みだったが、確かな美学や格調が彩る語りと、がっぷり四つに組んで向き合う内すっかり虜に。人が人を想う愛情が正負の両面で齎す効能、欲望との鬩ぎ合いが狂わせる認知の果てに惨劇が起こる作風を共通点として、全く印象の異なる結末はどちらも好みのど真ん中だった。甲乙付け難い傑作選。
2021/10/18
松井和翠
『異郷の帆』のみ再読。クセ球作家が投げた快速球。多岐川は何とも捉えにくい作家だ。ジャンルからは少しズレたところでものを書いているし、飄々や淡々など思い付く言葉は色々あっても、気が付くとそうしたイメージからスルリと抜け出している。この作も「出島の密室殺人」という表現だけでは捉えられない作品だろう。技術的なことを言えばラストの主人公の“追い込まれ方”はこの作家にしか書き得ないものであり、それによって茫洋としていた登場人物たちが読後くっきりと像を結ぶ。これが出来てこそ“小説家”というものだ。
2012/01/19
慧
★★1/2
2001/10/23
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