白秋 (講談社文庫 い 63-7)
白秋 (講談社文庫 い 63-7) / 感想・レビュー
おしゃべりメガネ
伊集院さんが書かれた数少ない超純粋な恋愛小説です。心臓を患い病床に伏せる美青年「真也」とそんな彼を長年看護してきた四十路の「志津」、二人の住む屋敷に花を活けにきた美女「文枝」の三人がおりなす、ピュアな恋愛と嫉妬、そして憎悪のバトル・ロワイアルです。「真也」と「文枝」が徐々に惹かれあっていく展開の描写は本当に美しくため息すら出てしまいますが、そんな二人に嫉妬する「志津」にはホントにイライラさせられます。最初のうちは彼女の嫉妬にも軽く同情できましたが、中盤からはキツかったです。若い頃には読めなかったですね。
2019/12/02
じいじ
古都鎌倉の四季のうつろいを舞台に、ひっそりと療養生活をおくる26歳の青年と、花を愛でる22歳の女性の一年の恋を綴った物語。とてもせつなく、やるせなくて歯痒いオトナの純潔な恋が、美しい流麗な文章で描かれています。こんな恋は、オトナの本当の恋ではない、と評価は二分すると思う小説ですが、私は「善し」に一票を投じます。献身的に男の看護をする40歳の独身女性が、純愛から恋に、そして男の恋人へ嫉妬し、憎悪に換わっていく女心を著者は実に巧く描いています。可憐な草花を求めて、白秋の鎌倉の野山を歩いてみたくなりました。
2019/09/23
クリママ
心臓を患った青年と40代の看護の女性の2人だけの静かな生活。古都鎌倉のしっとりした情景が目の前に立ち上るような美しい筆致。が、屋敷に若い女性が花を活けに来るようになり、切ない恋物語が始まる。まわりの大人たちの思いや、7年もの間ただ一筋に尽くしてきた看護婦の嫉妬が重なり、それは濃密な世界になっていく。死を見据えた青年の熱情は、伊集院氏の早くに亡くされた奥様に重なるところがあるのだろうか。若い女性の覚悟と、我を見失った女性の哀れさに思いが乱れる。
2023/11/26
KEI
兎にも角にも文章が美しく、描かれる鎌倉の四季折々の姿が目に浮かぶ様だった。療養中の真也とその屋敷に花を活けに来る文枝との一年を綴った淡く切ない恋の物語。これでは簡単過ぎるが、脇役も存在により深みが出る。看護人「志津」の真也を独占しようとする嫉妬はまたひとつの愛かもしれない。鎌倉の骨董商の「井上」や文枝の華道の先生「衣久女」の存在も彼らの恋の成就を助けていた。ラストの文枝と真吾の姿から明日に向かって生きようとするところで終わるのも良かった。
2023/10/23
エドワード
心臓を病む青年・真也を献身的に看病する志津。二人の住む鎌倉の屋敷へ、花を活けに訪れた若い文枝。真也と文枝は一瞬で恋に落ちる。真也の病が快方へ向かうにつれ、志津の心に嫉妬の炎が静かに燃える。鎌倉の史跡を背景に描かれる悲恋。こういうひたすら真面目なドラマを久しぶりに読んだなあ。いいもんですよ。花や陶器や和服や庭園、美の極致のような映像が期待できるんだけど、あまりに今の時代にあわないですね。今やメロドラマはすぐにパロディやギャグの餌食にされる哀しい存在。でも、キレイな俳優さんで映像化して欲しいのは本当デス。
2017/12/18
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