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台所のおと (講談社文庫 こ 41-2)

台所のおと (講談社文庫 こ 41-2)

台所のおと (講談社文庫 こ 41-2)

作家
幸田文
出版社
講談社
発売日
1995-08-02
ISBN
9784062630276
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台所のおと (講談社文庫 こ 41-2) / 感想・レビュー

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ミカママ

この装丁、このタイトル、そして幸田文さん、とくれば誰でも身辺のエッセイ集だと思うよね。読み始めてすぐに、どうやら違うぞ、でもいいぞいいぞ、と読み進んだ。父・露伴に仕込まれた教育(あとがき参照)のもと、日々を慈しむ暮らし、「やわらか」ながらどこか静謐な筆致。今日活躍する作家さんの誰にも似ないその個性、さすがです。

2017/11/04

ちゃちゃ

気配を感じるということ。それは、感覚を研ぎ澄ませて目に見えぬものを掬い取ろうとする営み。病床に臥せる夫が、襖一枚隔てた妻の台所しごとから感じとるもの。俎をたたく包丁の音、菜を洗う桶の水音から、妻の心ばえが伝わってくる。一方妻は波立つ心を夫に悟られまいと気遣う。こんな短編が読みたかった…と、思わず溜息がこぼれてしまう。小気味よい韻律を感じさせる歯切れの良い文体で、人の心の機微を繊細に描きあげる。気配で相手を慮るという日本人の美しい心のありように、モノクロ写真の味わいが重なる。表題作「台所のおと」のレビュー。

2019/02/16

ふう

味わい深く、しっとりと心に沁み入る作品です。10の話に登場する女性たちの身の処し方、心の処し方が、ほどの良い賢さで美しく、幸せというものはこんなふうにささやかでつましいものなのかもしれないと、しみじみとした気持ちになりました。弱いのではなく、むしろ強い女性たちです。言葉や文章にもしなやかな品の良さがあって、いい表現だな思うところがたくさんありました。「年をひろう」「朝の、いい人だった」「季節の受取りかたがだんだんへたになって…」 あげだすと切りがないほど、作品全体に渋く光るものが散りばめられていました。

2015/04/13

優希

凛とした文章が心地よい短編集でした。五感を鋭く研ぎ澄ませた感性で紡がれた作品はじんわりと心に広がっていきます。他の人の心を伺う日本人特有のあり方を美しく描き出している物語の数々に魅せられました。生きること、人であるが故の営み。そういったものを強く描き出しているからこそ受け取るものが多くあります。幸田文の文章が好きだなと改めて感じました。

2016/11/24

rico

ささやかな喜び、吐き出せなかった怒りや哀しみ、秘密。日々を重ねるうちに雪のように静かに積もっていく様々な想いを丹念にすくいあげ、美しい凛とした言葉で綴った十篇。例えば表題の「台所のおと」。病で寝付いた料理人の夫は包丁の音の変化に妻を気遣い、妻は自分の動揺を悟られまいと発する音の一つ一つにも心を砕く。静かに忍び寄る終わりの気配の中、音は来し方を呼び起こし、次の世代の到来を告げる。人はこうして生きていくのだと、ただただ感じ入る。ため息しか出ない。素晴らしい作品に出会えた幸福感にひたっています。

2021/10/03

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