山猫の夏 新装版 (講談社文庫 ふ 30-8)
山猫の夏 新装版 (講談社文庫 ふ 30-8) / 感想・レビュー
HANA
再読。大傑作。ブラジル北東部の町エルクウ、ここは長年にわたって二つの名家の対立が続いていた。そんな中両家の男女が駆け落ちし、「山猫」という男が訪れた時、何かが起ころうとしていた。七百頁を越え、再読作品にも関わらず一気読み。前半の追跡劇もさることながら、後半の町が舞台となる部分はまさに一気読み。登場人物全て主役格から小悪党までどこか一本筋が通っていて誰も彼も格好いいのである。そんな彼らも次から次へと血の海に沈む事が多いのだが、前述の理由やこの町のような乾いた文体故悲壮感は感じられず。いや、面白かった。
2023/05/22
HoneyBear
小説の真ん中で牧夫ラポーゾが言う。「運てえやつは、こればっかりは人間の知恵じゃどうにもならねえ。運てえやつに見放されたら、どんなにあがいたところで結局はくたばっちまうんだ。」舩戸文学初期の大作だが、この一節が彼のハードボイルド小説のテーマを凝縮しているように思う。間一髪の危機を幾度も乗り越えた勇者でも些細なことから命を落とす世界。これに虐げられし者たちへの目線が加わり、見知らぬ土地と世界を疑似体験させてくれる。この高揚感と虚脱感(無常観?)に病みつきとなって故船戸氏の小説にはまってしまった。
2017/12/17
hit4papa
灼熱のブラジルの中で展開される流血の冒険小説です。ブラジル版ロミオとジュリエットの逃避行から町全体をぶっ壊すほどのスケールのでかい物語へ展開します。山猫の”俺って強ぇ!”的な発言が痛快です。その分ラストの衝撃はでかいのですが。
geshi
ブラジル版のかなり厳しめな『用心棒』。圧倒的リーダビリティの最大の要因は、〈山猫〉の強さ・頭の良さ・揺るぎの無さ。底を見せない暗さを持ち、自らの利益のために血が流れることを厭わないが、無関係の人間は救おうとする一種の信念に基づいたキャラクターのバランスが魅力的で、「おれ」と同じように引き込まれていく。周りの小悪党達が目の前の利益のために血で血を洗う破滅をもたらしている中で〈山猫〉の筋の通った存在が格好いい。陰惨さは無くむしろ読後は清々しい、灼熱のヒリヒリする小説だった。
2015/06/28
クリママ
ブラジル東北部、憎しみという意味を持つ町エクルウ。対立する2つのファミリー。世のお兄さん、おじさんの憧れを具現化したような山猫と名乗る日本人。とにかく暑い。南米ものは、なんでこうもいっぱい死んで、なおかつこうも暑いのだろう。この作品が発刊されたころ(1985年)に読んでいたら、もっと熱く、かつ、爽快になれたかもしれない。
2017/07/01
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