季節のかたみ (講談社文庫 こ 41-3)
季節のかたみ (講談社文庫 こ 41-3) / 感想・レビュー
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
ここ半年の間、ふとした合間にずっとちびちびと読んでいたのでこの日常がなくなるのかと思うと少し寂しいような気持ち。幸田露伴を父にもつ筆者が、美しい文章で 日々の生活、心がけを綴った随筆集。 季節をいとおしみ、一日一日を大切に、背筋を伸ばして生きる。帯紐をきゅっと結ぶように、締め切った家の窓をからりと開け冬のきりりとした風を呼び込むように、ぽんっと背筋を正してくれるような本でした。
2019/07/22
アン
著者の研ぎ澄まされた感性によって日常が綴られる随筆集。美しい情感を呼ぶ言葉に魅せられます。「花に逢いたい」「季節との交際」「草の種のさすらい」…。移りゆく時代においても季節に親しみ、生活に喜びを見出していく心様を示してくれています。その根っ子には厳しくも「コーチ」してくれた父親の深い愛情が宿り、年を重ねても季節に巡りあえる楽しみを胸に前向きになれると。厳しい家庭状況の中で養われた眼差しの奥深さに胸を打たれます。老いる事をおそれず、心をみがき、まどかでありたいと思う今日この頃です。
2019/06/24
おにぎりの具が鮑でゴメンナサイ
近所にある小学校の玄関に卒業式の看板が掲げられていた。校庭の桜の枝にはつぼみが芽吹いていた。風はまだ冷たくても、ここに住んでから四回目のひとりで迎える春がもう近いことに焦れた。遠方の叔父から入学祝いが送られてきて、寿がれるべき娘はここにいないから戸惑ったが、お礼の電話をかけた。叔父は離婚のことには触れず、ただ娘の成長を喜んでくれた。私が娘のランドセルを背負う姿を見ることはできないけれど、いつまでも父親なんだと教わった。幸田文さんの本を読むと背筋が伸びる。季節のもたらすかたみを大切にしようと、残雪に誓った。
2017/03/19
ソングライン
70歳になる明治生まれの作者が感じる巡りゆく季節、変わりゆく日常生活を綴った随筆集です。凛とした生きる姿勢と美しい文章に惹かれますが、時に現れる、大事に当たる時は小事を忘れよ、心が縛られるときは、目を閉じ美しいものを想像し、気を変えよ、などの金言を娘に諭す父の姿に温かい娘への想いを感じます。
2018/12/06
あ げ こ
いつ何度読んでも幸田文の文章はいい。この滞りのなさ、淀みのなさ、誤魔化しのなさ、手抜かりのなさ。涼やかで、綺麗で、小気味好い。簡単に捨ててしまわない。それきりにしない。自らが持つもの、学んで来たもの、身につけて来たもの。しっかりと活かす。ちゃんと見つめて、確かめて。よく知ろうとする。よくわかろうとする。わからなければそのわからなさを。合わなければその合わなさを。ちゃんと言葉にする。会得したならば、鈍らせてしまう事なく磨き続ける。身についた事を、身についた言葉で、自らの持つ言葉で、表現する。いつも好ましい。
2018/03/29
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