恢復する家族 (講談社文庫 お 2-7)
恢復する家族 (講談社文庫 お 2-7) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『ゆるやかな絆』と対になるエッセイ。大江ゆかりさんの画が添えられる。本書の全体の主軸となるのは、大江氏と長男の光氏をめぐるエピソード。ここでは、大江氏に独特の仮構を廃してエッセイのスタイルで語られているためか、自由で伸びやかな感じがするし、読者もまた肩ひじを張らずに読むことができる。光氏に対して「知恵遅れの息子」と語るのだが、視線は情愛に溢れている。もちろん、それは時として鬱屈もするのだが。「仕方がない、やろう!」はは光氏への、そして「アイデンティティの裂け目」では、妻のゆかりさんへの愛情が伝わってくる。
2019/01/31
やまねっと
とても読み応えのあるエッセイだった。 主に長男光さんを中心にした話が多かった。障がいを持つ子供がいるのは辛いことだけではないなと思ったが、苦労も書かれるが、ここには書けないような苦労もお有りだろうなと邪推してしまいます。 挿絵のタッチもこの文章に添えるにはぴったりだった。 光さんの作曲したものを聴いてみたいと思いました。 大江健三郎さんは「おられる」を「いられる」と書く。そこはやはり「おられる」だろうとつっこみを入れたくなった。その方が僕には読みやすいから。 お勧めです。
2021/10/21
モリータ
◆初出は日本臓器製薬の季刊誌『SAWARABI(早蕨)』1990年~1995年連載、単行本は1995年講談社刊、文庫版(本書)は1998年講談社文庫刊。◆家族をテーマとしたエッセイ数。◆本書収録の「吟味された言葉」を教材とするため通読する。
2023/12/24
belier
医療関係者が読む季刊誌に書いたエッセイを集めた本。長男の光氏を中心に家族のことについて書いており、挿絵は妻のゆかり氏による。大江の文章も挿絵も優しさにあふれている。高踏的な文学からの引用もなくかなり読みやすい。「ザルツブルグ・ウィーンの旅1,2」は名品。親子3人でいい時間を過ごせてよかったですねと、一連の作品を通じて家族の知り合いになった気分で言いたくなった。ところで音楽家の光氏に引きつけて、自身の文章が悪文と言われていた原因に音楽性の問題があったのではないかという。村上春樹と正反対だなと興味深かった。
2023/01/29
ma_non_troppo
障害者の抱える障害を受容する過程をモデル化した考え方や、decentであるということ。人間の抱える悲しみや苦しみは、それを抱える人自身が「表現する」ことによって快復しうるという可能性。いろいろな示唆に満ちた一冊だった。読んでよかった。
2010/02/04
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