文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫 き 39-1)
文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫 き 39-1) / 感想・レビュー
Tetchy
一読、実に真っ当な本格ミステリというのが率直な感想だ。この京極堂こと中禅寺秋彦の「憑物落とし」は興趣くすぐる演出で新たな本格という風な捉えられ方をしたが、実は黄金期ミステリ時代への原点回帰的作品なのだ。理詰めで構築される博覧強記の京極堂の薀蓄語りとどこか情緒不安定な“信頼できない”語り手である関口の妄想めいた語り口が程なくブレンドされており、デビュー作とは思えない独自の作品世界と文体を既に確立しているのが素晴らしい。実に私の好みと合った作品だが、メインの謎に関する真相はいささか期待はずれ感が否めない。
2010/04/07
ヴェルナーの日記
この小説は、推理小説として稀有な存在だ。冒頭から第2章に至る90頁ほどまで、事件のあらましが殆ど語られない。ただ京極堂の文芸批評論の薀蓄を語っているだけなのだ。しかし、その内容が面白い。近代文芸論を解体している。京極堂風にいえば、憑物落ししているのであって、つまり推理モノ好きな読者(推理モノ憑き)に対して、憑物を落としている…… 恐れ入谷の鬼子母神だ。読感は、『新世紀エヴァンゲリオン』をイメージしてしまう。清純な少女と恋に落ちた女と子を持つ母という3つの性が、互いに責めぎ遭っている。まさに業と呼ぶべきか。
2016/01/13
徒花
すげえ久しぶりに読了。映画も見たはずだが、びっくりするほど内容を覚えておらず、自分の脳みそに失望したとともに感謝する。読み返してみると、じつは小説としての構造自体は非常にシンプルで、事件は一つしか起きていないし、登場人物もさほど多くないので、冒頭に登場人物紹介がなくても特に混乱しない。ページ数が多いのはひとえにウンチクがたくさん出てくるからだが、そのウンチク部分も改めて読み返すと非常に分かりやすく書いてあり、あくまで読者目線になって説明されるのでこの大長編ながら「読みにくい」と感じることはないはずだ。
2016/11/24
absinthe
混乱期をやっと乗り越えた戦後日本。古い日本の伝統的な神秘的世界観と、現代の科学的世界観を上手に融合させたミステリー。主人公、京極堂の知識が次々と披露され読者を圧倒するが、流れは決して解りにくくは無い。登場人物はだれもがどこかひと癖あって興味深い。とても厚いので、手にとるには勇気がいるが、この手のミステリーが好きなら後悔はしないだろう。解説するまでもない有名小説。
2015/10/21
nobby
「この世には不思議なことなど何もないのだよ」ほぼ10年振りの再読は聞いてニヤリな言葉から。その分厚さが多岐に渡る説明で溢れるのは覚えていたが、その理解が心地よかったのは成長の証か(笑)二十箇月も身籠っているという娘、それは失踪中の夫の呪いなのか…個性的で思い出す都度笑える面々の登場に加え、不可思議な雰囲気にのめり込むこと必至。そしてラスト訪れる驚愕!ありえないの一言になりかねない謎解きを、単なるキャラ付け思わせる薀蓄や設定で、ぐうの音言わさず補完する様が素晴らしい!
2017/06/18
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