犬婿入り (講談社文庫 た 74-1)
犬婿入り (講談社文庫 た 74-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
第108回芥川賞受賞作。「ペルソナ」を併録。こちらも、よくできた作品だとは思うが、表題に現れているように「ペルソナ」のアイディアが小説の構造そのものを決定している感があり、硬さが否めない。一方表題作の「犬婿入り」は、うんと柔軟な造りになっている。飯沼太郎のわけのわからなさも痛快だ。しかも、荒唐無稽で一種寓話的な世界でありながら、それが独自の小説空間として見事に自立している。可能性でいえば、芥川賞作家の中でも、あるいは10年に1人の逸材かと思う。多和田葉子は初読だったが、今後も注目して行きたい作家の一人だ。
2013/06/18
遥かなる想い
第108回(平成4年度下半期) 芥川賞受賞。 キタムラ塾の北村先生を めぐる母親たちの噂話が 面白い。「犬婿入り」という 民話を題材にしたのだろうか …北村ミツ、飯沼太郎の 不可思議な存在感が抜群で 奇妙な世界に引きずり込まれる。 何が何だがわからないまま、 著者の描く不思議な世界を 楽しむ…そんな物語だった。
2014/09/15
pino
表題作。一息に綴られた文章は犬に尻をべろんと舐められた様で(舐められたことは無いが)たじろぐ。塾を経営する、みつこが子供たちに話した<犬婿入り>という民話もやけに艶めかしい。子供たちは鼻くそ手帳を面白がったり、みつこの乳を見せろとせがんだり。民話も子供もそうしたものだと納得しそうになり、おののく。みつこの元にやって来た「太郎」はいかにも犬だし家事もこなす。後の展開も何とも奇妙。とんでもない所へ連れてこられた様で可笑しいやら恐ろしいやら。困るので一度でヤメておいたが「電報」が気になり結局、何度も読み返す。
2021/01/20
hit4papa
家庭教師を営む女性が、生徒に繰り返し聞かせたのは、尻を舐める犬の寓話。ある日、彼女の前に現れた男はお話しの通り尻を舐める癖を持っていた、というタイトル作。マジックリアリズムととらえたら良いのでしょうか。ひたすら長ったらしい饒舌文章を読みと、何故か笑えてくるのでツボにハマりました。物語は突拍子もない結末を迎えるのですが、ざっくりと言うと変なお話しです。他収録の「ペルソナ」はドイツに暮らす姉弟の日々を描いています。異邦人の孤独とかアイデンティティとかなのでしょうが、鬱勃としているだけでつまりません。【芥川賞】
2018/07/21
nico🐬波待ち中
人は自分と共通点のある似通った人とは仲間になりたがるけれど、ちょっとでも異なる人とは区別したがる。生まれた国や文化、風貌、立ち振舞い等あらゆる基準により自分とは異なる者を「異物」と見なして排除し、時に攻撃する。まるで多数決で多い方が正義となるかのように。個人的には芥川賞受賞作の表題作より『ペルソナ』が好き。ドイツに留学中の道子が能面(ペルソナ)で顔を隠すことにより、「日本人」という柵から解放され堂々と歩く姿がとても印象深い。長年ドイツで暮らす多和田さんも、ドイツに住み初めの頃は色々と苦労したのだろうか。
2018/11/25
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