弥勒 (講談社文庫 し 46-3)
弥勒 (講談社文庫 し 46-3) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
篠田節子の畢生の力作・大作にして、おそらくはこれまでの最高傑作だろう。ヒマラヤ山中の架空の王国、パスキム(イメージ造型の背後にはチベットとネパールが、さらにはバリや北朝鮮も)を舞台に、人間にとって真の幸福とは何か、そもそも人が生きる意味とは何なのかが問われてゆく。この作品の前では、浅薄な文化相対主義も色あせる。文化そのものにとっても、そしてより根源的な「生」が、文字通り極限状態の中で、切り刻むように次々と露わにされてゆくのである。物語の最後は、井上ひさしの『黄色いネズミ』によく似ているが、あるいは⇒
2020/05/01
ろくせい@やまもとかねよし
完全平等を標榜する政治イデオロギーの恐怖を描く力作。インド北部の盆地にある架空小国が舞台。王政であるが、国外の科学技術や宗教文化を取り入れ独自の信仰観と国内身分制を築き、安定した質の高い生活を保障していた。一方、都市部と地方との極端な経済格差、一夫多妻など前近代的な女性人権など問題を抱える。これに疑問をもつ高官の軍事クーデター。全国完全平等自給自足体制を目指す。宗教や慣習や科学技術を否定し、非エリート層と子供の再教育で達成をめざすが、食料不足、感染症の蔓延、そして監視社会と禁欲主義から人間が変容していく。
2020/04/13
なゆ
とてもとても大きなスケールの話で圧倒されてしまった。ヒマラヤの小王国パスキムで起きた革命に巻き込まれ囚われ、強制労働キャンプのようなところで暮らすことになる永岡。一体どうなることかとハラハラしながらも、考え込ませられることも多い。祈りや信仰、豊かな暮らしと幸せな暮らし、自然との共生、人間らしく生きるということ…、とにかく深い問いが。話の中で子供達が洗脳され、少年兵となるところは悲しすぎる。ラスト、必死で守り続けた美しい弥勒菩薩像とダンボールで作られたチョルテンの対比、これもまた深い。心にズシンと残る本。
2016/01/09
ざるこ
読むのに気力を要した作品だった。新聞社社員の永岡が魅せられたヒマラヤの小国パスキム。政変が起きたことを知り密入国、苛烈極まる生活を強いられることとなる。血まみれの弥勒菩薩、腹を割かれ肺に穴を開け殺された僧侶たち、谷に棄てられる少女。ゲルツェンの完全平等の思想に最初はあまりイヤな気はしなかった。美しく彩られた都市部を支えるための犠牲が不憫に感じたからだ。でも原始に還る生活が負の連鎖となり地獄と化す。幸福って、救いって、価値観ってなんだろう。祈らずにいられない世界がここにある。これだけ書ききる篠田さんに脱帽。
2019/09/05
GAKU
読むのに時間がかかった。重い読書でした。幸福とは?平等とは?生きるとは?価値観とは?色々と考えさせられた作品でした。疲れた。
2019/03/22
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