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取り替え子 (講談社文庫 お 2-11)

取り替え子 (講談社文庫 お 2-11)

取り替え子 (講談社文庫 お 2-11)

作家
大江健三郎
出版社
講談社
発売日
2004-04-15
ISBN
9784062739900
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取り替え子 (講談社文庫 お 2-11) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

どう捉えていいのか困惑をおぼえる小説である。基本的には大江のこれまでの手法と似てはいるのだが、同時に微妙な違いをも見せる。まず、本書の主要な登場人物たちは、あまりにもあからさまに現実の人物に同定される。にもかかわらず、それはあくまでも古義人であり、吾良であり、千樫として提示される。大江の手法上の言葉で言うならば、語りなおすことによって「異化」を徹底させたのであろうか。また、最終章だけが千樫の視点から語られ、そこにタイトルの"Changelings"が現れる。しかも、それは多義的な意味を持つ言葉として。

2019/09/24

かみぶくろ

世界のOeの「レイトワーク」冒頭あたりに位置付けられる作品。相変わらず読みづらいわーとか言いながら苦笑して読み始めたが、読んでいくうちに完全に没入、読了後は深いカタルシス。手法も文章も作品世界も、改めてこの人は「別格」だと感じた。印象的だったのは、筆者自身の悲しみと苦悩の深さ。ノーベル賞という文学者最高の栄誉を得たはずなのに、日常や過去から常に脅威と不安を感じる日々。だからこそ、ラストの「まだ生まれて来ない者たち」への希望に強く揺さぶられる。それは祈りと呼ぶにはあまりに強靭な意志に思える。

2015/06/25

かみぶくろ

再読。実人生と虚構と先行作品(本作においてはモーリス・センダックの絵本)が一体となって絡み合う唯一無二の文体と世界。濃密な文章。貫かれているのは、自死を選んだ義兄、伊丹十三に対する深すぎる悲しみ。それでも「まだ生まれて来ない者」への強い希望で終わる本作は、筆者自身のグリーフワークとしても、強い存在感を発している。続編的位置付けの「憂い顔の童子」が絶版状態ということが、個人的には深い悲しみ。

2019/12/01

白のヒメ

大江健三郎の私小説とも言わている通り、高校生からの親友でもあり、義理の兄である伊丹十三との関係が描かれている。ツインソウルやソウルメイトなどという言葉が思い浮かぶほど、芸術的指向も人生おける価値観の重視の志向も似ている二人の天才。凡人の私の想像など追いつかないものなのかもしれないけれど、片方が自死によりこの世からあちらの世へと移行してしまい一人きりになった孤独感、拒絶感はどれだけの苦痛だっただろうか。ただ一つの希望は死者の生まれ変わりを望むこと。生まれ変わって自分のもとへ帰って来る希望なのだろうか。

2016/04/11

クリママ

私小説かと思われるものの多い大江作品。同郷の友人吾良は伊丹十三。彼の妹であり妻の千樫。そして、当人である古義人。吾良の突然の自殺。彼から継続して送られて来ていたテープを聴き続ける。まるで少年のようだ。日本を離れ、テープからも離れ、心を癒す日々。綴られる吾良との様々なエピソード。そして、若き日にあった衝撃的な出来事。千樫の目線で語られる最終章。センダックの本。はじめてわかる「取り替え子」の意味。そう信じるしかないのだろうか。でも、それは先に読んだ「人生の親戚」とは逆の結末に思える。

2019/10/30

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