花腐し (講談社文庫 ま 53-1)
花腐し (講談社文庫 ま 53-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
2000年上半期芥川賞受賞作。選考委員たちの選評はかならずしも好意的ではない。作中の登場人物伊関との関わりをどう見るかによって評価が分かれそうである。それまで主人公であり物語の語り手でもある栩谷と伊関とは、まったく接点を持っていなかったのだから。また、栩谷の回想の中にしばしば現れる祥子にしても、相互の精神的な紐帯は希薄だ。つまり、栩谷はずっと孤独の中にいて、今はじめて思索することでそのことを確認したのだろう。小説のアイディアとしてのマジックマッシュルームもまた評価を分けそうだ。この小説の特徴ではあるが。
2013/10/01
ω
久々の芥川賞(2000年)📕 東大卒の詩人、小説家、フランス文学者。読んだ後で「な〜るほど。頭が違うわ」と思っちゃった😹 アテのない男に危険マッシュルーム🍄など出てきて…分からないまま終了|・ω・`)。。難しいよぉ〜。同時収録の「ひたひたと」の方が読み物としては面白かったω 時代もあったのかな。
2022/11/08
たぬ
☆4 芥川賞受賞作を読もうシリーズ。この吹き溜まり感…田中慎弥や西村賢太の芥川賞受賞作を思い出した。アパート内の最初の描写から伊関はてっきりデイトレーダーかと思ったらきのこか。ヤバイきのこか。伊関もアスカも栩谷も刹那的だなあ。明日死ぬよと言われても特に焦らず淡々としてそう。併録の短編もこれまたじめっとしてる。
2022/06/28
石橋陽子
著名は卯の花腐しという万葉集の和歌からきている。四月頃、卯の花を腐らせるように降り続く長雨を言う。梅雨のこの時期に読むと一層闇深さが押し寄せてくる。なんとも暗い臭いのあるじっとりとした小説である。人間はいずれ死ぬ。死んだら腐敗して、悪臭を放つ。そんなことが分かりきっているのに今を生きる。生きるとはだるいこと。気だるさに紛れて人は死んでいく。だからといって何も残らない。映画化されているが、この世界観をどう表現されているのだろうか。近々味わってみたいと思う。芥川賞受賞作。
2024/06/26
かみしの
腐敗。1990年代という時代は、おそらく相当に暗い時代だったのだと思う。バブルの栄華がはじけ飛び、経済の中心地である東京の虚構が明らかになってしまった時代。奇しくもこの小説が芥川賞をとる一年前に椎名林檎の「無罪モラトリアム」が出ている。そういう場所と時代のアングラな部分を生の炎を打ち消す万年の雨のイメージとともに描いているのではないかと思う。あと、マジックマッシュルームをネット販売しているあたりに、ネット黎明期のネットに対する不安感が現れている気がする。都市化への疑問のまなざしは、ボードレールと対照的だ。
2017/02/19
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