似せ者 (講談社文庫)
似せ者 (講談社文庫) / 感想・レビュー
鈴木拓
異なる立場から歌舞伎に携わる人々を描いた四編の物語は、いずれも心にじわりと染みる秀作だった。 表題作の「似せ者」は、亡き名優に仕えた男が、似た役者に二代目を名乗らせて育てていこうとする話である。名優と似せ者、そして主人公の男、それぞれの生き方から、人生の不思議さ、面白さが見えてくる。 「狛犬」は、二人の役者の男物語だが、四作のうちで最も泣けた作品だった。大切なものは失って初めて気づくということがある。そういう思いを背負って人は生きていかなくてはいけないのだろう。
2021/04/05
あすか
描かれる役者の業。舞台に取り憑かれるのは幸せなのか哀しいのか、やはり分からない。芸の道でしか生きられない人間、芸以外の道を選んだ人間。その違いについても考えることになった。
2022/03/25
horihori【レビューがたまって追っつかない】
元禄文化の余波を残す頃から幕末・明治まで、芝居で身を立てる人々を描く短編4編。亡き坂田籐十郎のそっくりさんを二代目に仕立て上げた番頭の思惑と役者の葛藤「似せ者」ライバルであり同期である2人の役者。追われる立場にいたつもりが気づけば追い抜かれたときの2人の関係「狛犬」一世一代をした芸人が当たりを取ったことにより、舞台への執着を強めていく「鶴亀」世情も芝居も激動の時代に、侍と芸人の建前と本音を描く「心残して」芸人の生き様を描きながら、誰もが抱える自分らしさの問い、愛憎や執着など人の底に普遍的にあるものがテーマ
2008/01/31
下町ロコモーティブ
*松井さん専門の歌舞伎の世界を描いた四編からなる作品集。「似せ者」の舞台は元号が正徳の1710年頃の上方。「狛犬」の舞台は宝暦、1750年頃の江戸。「鶴亀」は寛政、1790頃の上方が舞台。「心残して」は元治から慶応に改まった1860年頃の江戸が舞台。全四編にわたり当時男女の愛憎模様も描かれますが著者らしく格調が高い書きっ振りになっています。
2019/04/13
タツ フカガワ
歌舞伎の舞台と、その裏で繰り広げられる人間模様を描いた短編4作はどれもメチャクチャ面白い。役者の芝居にかける業は生々しく、演じられる芝居や演奏は臨場感たっぷりで、ページをめくる手を休ませない。歌舞伎門外漢がそう感じるのは、三浦しをん『仏果を得ず』の浄瑠璃以来のことです。なかでも「狛犬」「心残して」は再読必至の作品でした。
2017/07/24
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