新装版 命の器 (講談社文庫 み 16-18)
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新装版 命の器 (講談社文庫 み 16-18) / 感想・レビュー
有
人並みに生き、悩んでいたはずだった。圧倒的に足りない。人の苦しみに寄り添う経験が、想像力が。宮本輝という人の心を少しだけ覗いて、ひたすらに打ちのめされた。わかりやすい心理描写がない、刺激がない、重くて疲れる、それくらいのことしか考えられない読書ならやめてしまえ。理解できない部分を考え、言葉の裏を思い、浸れ。没頭しろ。読んだ今自分にそう言いたい。現代というぬるま湯でぼんやりして、言葉を言葉のまま受け取り、本質に辿り着けない思考の浅さを恥じ、口元を引き締める。命の器というよりは、命のちからを観じる読書だった。
2021/04/30
きりこ
いつもながら滋味のあるエッセイの数々。【出会いとは決して偶然ではないのだ。でなければどうして出会いがひとりの人間の転機と成り得よう。どんな人と出会うかは、その人の命の器しだいなのだ。抗っても抗っても、自分という人間の核を成すものを共有している人間としか結びついていかない。】(本文より) 古本屋で選びとった文庫も巡り合いの一つで「貧しき人々」が「錦繍」を書かせたとのこと。【汚濁も清浄なものも隠し持つ混沌とした私たちの命。どんな境遇を問わず、人々はみな錦繍の日々を生きている】「錦繍」再読してみたくなった。
2013/06/18
June
宮本輝氏のエッセイ。富山の鉛色の雪の風景、父が事業に敗れて苦しかった貧乏生活、十円もなくて堺から大阪の福島区まで歩いて帰った夜、川のほとりの暮らし、不安神経症、結核、蔵王の紅葉、エピソードが作品に繋がっているのが面白い。心にのこった言葉「確信」それは不可能をも可能にもする不思議な作用。「出会い」は決して偶然ではない、同じ資質を持つ者が同じような人を呼ぶ不思議。高校、大学と友人には恵まれたけれど、この広い世界、Webという顔の見えない空間で、読メで知り合えた方々はいい人ばかりで、自分の幸運を感じています。
2016/10/17
はふ
人間の美しさや醜さを洗いざらし書き出し、人間の本質について迫る、芥川賞作家の宮本輝氏による自伝的エッセイ集。氏は、「泥の河」で太宰治賞、「螢川」で芥川賞を受賞し、その後の作家生活は円満だと思われた直後、肺結核に倒れる。その経験を土台とした、氏ならではの視点や人間観を味わうことができる一冊。 特に「命の器」には人と人との関わり合いの本質を読み取ることができる。人は自身と同調する魂を持つ人に引き寄せられ、そこには必然性がある。つまり出会った人が悪いのではなく、全て自分自身の命の器が出会う人を決めているのだ。
2023/10/24
B-Beat
★面白かった。「流転の海」シリーズなどこれまで読んだ作品でも描かれていたテーマや作者の主張がより具体的直接的に盛り込まれたエピソード集という感じ。作者中二の時、露店に10冊ずつ束ねられた文庫本が売られており、その15,6の束より元のように束ね直すから束をばらして好きな10冊を売って欲しいと交渉しそれを実現したエピソードが印象に残る。その10冊の文庫本の名前を読んだ順番に今でも諳んじることが出来ると。氏のエッセイ集は他にもあるようだ。チェックしていきたい。
2013/03/29
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