リトル・バイ・リトル (講談社文庫 し 75-2)
リトル・バイ・リトル (講談社文庫 し 75-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
小説の語り手である、ふみには実父、継父、実母、実妹といった係累があるのだが、彼らとふみとの関係性はいたって希薄である。現在、一緒に暮らしている母や妹においてもそうだし、恋人関係になった周との間においても、そこに濃密な関係性を構築しえない。それは、ふみのあくまでも個として生きることの表象でもあるだろうが、同時に現代の若年層が置かれた曖昧さの形象であるようにも見える。本書は著者20歳の作品らしいが、残念ながら踏み込みが不十分である。躊躇せずに飛び込んだ先にこそ文学世界が広がっているのではないだろうか。
2018/07/27
おしゃべりメガネ
ハードカバーで読んで以来、3年ぶりの再読です。ここ最近の作風からはとてもイメージできないピュアな雰囲気がとても印象的です。2度の離婚を経た母と、父親違いの妹と三人で暮らす「ふみ」。高校を卒業し、アルバイトをしながら暮らしています。そんな中、母の勤め先である整骨院で出会ったキックボクサーの「周」と出会い、少しずつ距離が縮まります。そんな二人のやりとりが本当にピュアで、ある意味とても新鮮でした。'家族'のあり方は人それぞれであり、親とのコトも人それぞれかなと。これを二十歳のトキに書いた島本さん、スゴすぎです。
2019/11/30
黒瀬
恵まれているわけではない。家庭の経済状況から大学進学を一年先送りにしてアルバイトをしている"ふみ"の状況を鑑みればどちらかと言うと不幸寄りだ。だが不思議と後ろ昏い部分が殆ど見当たらない。どこか不思議ちゃんな香りのする母や書道教室の柳先生、ボーイフレンドの周との穏やかで平穏なやり取りがそうさせるのだろうか。口語体で余計な修飾もなくアッサリと紡がれる文章は、ふみや周のような大人を目前にした子どもの成長の早さを表しているかのようだ。
2020/02/24
さてさて
”ハレの日”にワクワク感を抱き、待望する気持ちがあります。しかしその感情は、”ケの日”=普通の日常が続いていてこそ、生まれるものです。私たちは、様々な人と関わり、結びつきあって生きています。昨日よりも今日が、そして明日になればまた、と少しづつ相手を知ることになり、関係も深まっていきます。そう、”少しづつ”、”だんだんと”、という小さな変化に焦点を当てたこの作品。ただただ描かれる何も起こらない日常、そして読み終わってわき起こる温かい感情の不思議を感じる物語。ささやかな日常の幸せをしっとりと感じた作品でした。
2020/11/23
ゆのん
島本理生作品2作目。頼り無いのか頼りになるのか微妙な母親と異父姉妹と暮らす主人公の日常を淡々と綴った家族小説であり青春小説。妙な装飾の無い静かで素直なな文章に好感が持てる。特に劇的な事件が起こる訳では無いが一般的な日常なんてそんなものだろう。その中に皆頑張って生きているんだ、普通の日常が幸せなんだと感じた。
2018/12/07
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