KADOKAWA Group

Facebook X(旧Twitter) LINE はてブ Instagram Pinterest

M/Tと森のフシギの物語 (講談社文庫)

M/Tと森のフシギの物語 (講談社文庫)

M/Tと森のフシギの物語 (講談社文庫)

作家
大江健三郎
出版社
講談社
発売日
2007-01-12
ISBN
9784062756082
amazonで購入する Kindle版を購入する

M/Tと森のフシギの物語 (講談社文庫) / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

ヴェネツィア

これまでにもいくつかの小説で微妙に変奏されながら語られてきた大江の故郷の村の物語の、いわば集大成である。四国の谷間を遡ったところにあり、周りからは隔絶した村の創世神話と、それに続く歴史が語られる。ひじょうに特異なのは、国家の神話とは別の体系を持って「壊す人」と「オーバー」に始まる村の神話が語られることである。すなわち、そこでは国家全体のナショナルと極微のリージョナルとが拮抗する。そして、歴史時代に入っても、この村は大日本帝国に対して「五十日戦争」を闘うのだ。大江のリージョナルにして壮大なマルケス風の物語。

2013/08/31

メタボン

☆☆☆☆☆ グロテスクリアリズムの真骨頂とも言える豊饒な物語を堪能した。同時代ゲームも読んでたので、既視感に満ちた読書だったが、本人も書いていたように、ナラティブ(語り方)にこだわった故に、一層物語が心に響いてくる形となった。やはり主人公の母の愛媛弁の語りが良い。オーバー、オシコメと壊す人、銘助さんと銘助母、祖母と天狗のカゲマたるKちゃんと光といった、メイトリアークとトリックスターの関係性が奥深い。ある意味大江の集大成と言える傑作。単行本は綺麗な装丁で、子供向けとも思える感じだが内容は深かった。

2022/11/03

ちこたん

★★★★★四国の山深くに人知れず在る閉ざされた村の、創世神話と歴史の物語。伝承とはいつの時代も、語られずに葬られた闇と矛盾をいくつも孕んで、混沌とした魅力を増すが、本作も例外ではない。彼らは独自の神話・戒律・生死観・宇宙観を育んでおり、それは日本古来のものとは似て非なるもので、まるで一つの国家の体さえなしている。作中の譜面「kowasuhito」をピアノで弾いてみたら、とても純粋で澄んだ旋律に驚いた。これは「森のフシギ」のメロディーなのだろう。ー「壊す人」は「森のフシギ」の中に帰っていったのでしょうが!ー

2015/10/17

梟をめぐる読書

大江文学のなかでも非常なまでの難解さによって知られる『同時代ゲーム』(=谷間の森の神話と歴史)を文体を変えて、わかりやすく再話したもの。壊す人、アポ爺・ペリ爺、メイスケサン、自由時代、五十日戦争といった固有名詞はそのままに、村の歴史を伝える語り手をより現実の作者に近い位置に再設定し、神話の細部もところどころ弄っている。M/Tとは〝Matriarch(女族長)〟と〝Trickstar(トリックスター)〟の謂いだが、『万延元年~』の〝蜜三郎〟と〝鷹四〟もこのイニシャルに対応していたことに後で気付いた。偶然?

2013/04/14

マウリツィウス

大江健三郎の形成する記号表象界はボルヘス経由、マルケスやカフカを連想するかもしれないが、バベルの構築論と著しく一致する箇所も何点か見られるようだ。例えば作中にM/Tの農村には架空の建造物の陳列が語られるが、ボルヘス思想を簡潔にキューブ配列の世界に解釈、記号性のある名前を同志安部公房への敬愛に捧ぐ。本質的にはジョイスの生成界を日本レヴェルにブレイクアウトし結界に近い領域を完成、安部の悲願である不条理劇の大衆化を果たしていく。大江が見据えたのは恐らくモアの説くユートピア、反キリスト教主義を因縁に含めている。

2013/04/16

感想・レビューをもっと見る