FUTON (講談社文庫 な 70-1)
FUTON (講談社文庫 な 70-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
中島京子のデビュー作。とても「無名の新人」(あとがき)が書いたとは思えない完成度である。そもそも、この小説の構造が凝っていて、田山花袋の『蒲団』を二重にパスティーシュする形で成り立っている。すなわち、作者による花袋の原作の「打ち直し」と、時間を現代に移行させアメリカ人の花袋研究者であるデイブ・マッコーリーを時雄(原作の主人公)役に見立てた物語とが交互に展開するのである。そして、そこに独特の表現効果が生れてくる。書いているうちに、次々に女たちが語りだした(あとがき)そうだが、まことに躍動感に溢れた小説。
2022/08/31
KAZOO
最近中島さんの小説を読んで、自分には比較的合った感じなのでこの本も読んでみました。田山花袋の小説「蒲団」の本歌取りのような感じですね。私は昔田山花袋の本は文学史的にも有名なので読んでみたところ、なんという女々しい主人公だなあと感じたことがありました。この本はさらに文中に別の本を納めていてかなり面白い小説だなあと感じました。うまい設定だと思います。解説の斎藤美奈子さんの文章も良かったと思います。
2017/09/20
yoshida
田山花袋の「蒲団」。高校時代に国語の便覧で荒筋を読んで衝撃でした。中島京子さんの「FUTON」。初めは「蒲団」を海外に舞台を変えた内容かと思いましたが、奥行きの深い読ませる作品でした。日本近代文学が専門のデイブ教授。彼は自分のもとを去った恋人エミを追い、学会の開かれる日本へ。エミの曾祖父のウメキチをモチーフに絵を描くイズミと知り合い、背中を押すデイブ。デイブの執筆する「蒲団の打ち直し」も興味深く読む。介護に触れるところは、後の「長いお別れ」に通じるものがある。明治から戦中戦後の日本も描き読ませる作品です。
2020/05/30
美登利
中島さんのエッセイでこのデビュー作の事を知りました。田山花袋の「蒲団」を下敷きにそれをアメリカ人の日本文学研究家の中年男が書く小説と、今時の若い教え子との関係が重なって2つのストーリーが混在します。「蒲団」は読んだことが無いけれど、発表当時もかなり赤裸々な私小説との評判だったらしい。100年以上たってみて、大きく変わった男女の恋愛事情に驚き、それでも男と女の考え方はいつまでも交わらないものだとも言える気もします。戦時中、原爆、911のテロ。盛りだくさんで多少混乱します。これがデビュー作なんてやはり凄い。
2016/01/27
naoっぴ
中島京子さんのデビュー作。田山花袋『蒲団』の恋する中年男の心情に、花袋研究家デイブとウメキチ老人の恋心を重ねながら、いくつもの物語が同時進行していく。中年以上の男の情けなくも滑稽な姿を可笑しみをもって描いたり、『蒲団』を妻目線で書いた「蒲団の打ち直し」パートなどとても面白い。ユーモアある柔らかな文章も好き。だけど言い回しが冗長だったり繰り返しも多くてちょっとわかりにくいのが玉にキズ。とても良いのになんだか惜しいなぁと思いました。戦争、ジェンダー、介護など多くの要素がつまった意欲作。
2020/10/29
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