ランドマーク (講談社文庫)
ランドマーク (講談社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
特異な螺旋構造を持つビルO-miyaスパイラルの建設を軸に語られる進行形の物語。主人公は、全体を見渡せる立場にある設計者の犬飼と施工現場で働く隼人の二人だが、彼らは互いにほとんど接点を持たないままに物語は構築されてゆく。門外漢の私などは諸手を挙げて感心してしまうくらいに、建築設計と施工現場がリアルに語られる。犬飼の行動は、その若干の逸脱も含めて予想の範疇を超えることはないが、隼人のそれはかなり珍しいものである。すなわち、彼が男性用の貞操帯を自ら装着している点がそうである。これはいったい何なのだろう。
2019/09/26
ミカママ
吉田修一さまお得意の東京(大宮も含む)オサレストーリー的な。大宮のランドマークとなるビル建築に関わる、建築士と下請けで働く労働者たちの物語が交互に語られる。修一さまは、本当に建築がお好きなのね。世が世ならば、建築士になりたかったんだろうな。登場人物、すべてが愛おしい。そして、建築士の住む、オサレなマンションは、やっぱり桜新町で決まりっ!⁽⁽◝(๑꒪່౪̮꒪່๑)◜⁾⁾
2016/10/09
おしゃべりメガネ
なんとも不思議な作風であり、読後感が残りました。なぜか強固な鍵付き貞操帯を着け、日々暮らしている「隼人」と奥さんと愛人に、日々振り回されて毎日を過ごしている「犬飼」のそれぞれの目線で語られていく作風は独特なテンポとともに印象的です。特に大きな起伏はありませんが、淡々としながらもちょっとした出来事に悩み続けている「隼人」になぜかしら好感が持てました。ラスト、恋人?と思われる女性とのくだりは、ちょっとしたユーモアもあって、ステキに感じました。ボリュームも少なく、最後まで飽きることなくイッキに読了できます。
2020/09/06
みっちゃん
「なんで、こんな(ことをするのか)それを訊いているんだよ」主人公のこの言葉、それがそのまま今の私の気持ちだ。フロアが捻れながら巨大な螺旋を描くという超高層ビル。その建設に関わる者たちの内面もいつか捩れ、絡まり合うというのか。安定↔️不安定、高揚感↔️絶望感、幸福↔️不幸と目盛りの幅が振り切れる程に揺れ動き、ある日、突然取るように見える突飛な行動に最後までついて行けなかった。終盤ハッピーエンドで終わるのか、と思わせてからの衝撃のラストも余りにも唐突で戸惑うばかりの自分がいる。
2020/09/12
papako
大宮にねじれたビルを建てる現場にいる隼人とビル建築の責任者の犬飼。交互に二人の視点で話が進む。壊れそうな隼人は貞操帯で踏み止まる。デザイナーズマンションの犬飼は少しずつずれていく。二人の車の速度の違いが、ビルに絡め取られる犬飼と逃げきる隼人を表しているみたい。ボルトが破断する描写は現実なのかしら。なんとも吉田さんらしい、不穏な空気と、妙な現実感のあるお話でした。
2018/09/10
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