治療塔 (講談社文庫 お 2-18)
治療塔 (講談社文庫 お 2-18) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
大江健三郎初のSF。およそ50年後くらいの近未来の日本が物語の舞台。限定的核戦争と原発事故によって荒廃した地球。そこから脱出したものの帰還してきた「選ばれた者たち」と「残留者」。それは、現在推し進められている富裕層と、そこから取り残された大衆層の二極化を髣髴とさせる世界だ。こうした構想は、確かにSF的ではあるけれど、表題ともなった治療塔のアイディアは、イェーツからもたらされたものであり、むしろ詩的なファンタジーの領域に属するだろう。そこに大江文学としての特質はあるものの、曖昧に終わったという感も否めない。
2014/10/18
ナハチガル
再読。諸星大二郎を読んでいたらふと読みたくなった。最近のSFはどれもライトノベルかアニメのノベライズみたいな感じがして食指が動かないのだが、これは楽しめた。独特なSF的ガジェット(「選りわけるガラス」とか「タコ人間」とか)も味があるが、なにより小説としてさすがに読ませる。宇宙船団による選ばれた人類の移住が骨子なのに、ほとんどの場面が草ぼうぼうの空き地が見える小さな部屋での回想と会話という構成がたまらない。SFの看板を掲げつつSFを書く気が全くなかったのが功を奏したのであろうSF黙示録文学。A+。
2021/10/04
たぬ
☆3.5 いやあ難敵だった。大江健三郎がSFってイメージにないなあどれどれ…と手に取ってみたけどそんなテキトーな理由で読むようなモンじゃなかった。数語でも読み飛ばせば文章わけわかめになりそうだから気が抜けないのよ。普通に考えれば「選ばれた者」が圧倒的勝ち組なんだけどそうでもないな、「残留者」のほうが幾分マシなのかなと思ったりね。イェーツの詩を多少なりとも読んでいれば面白さは増すのかもね。
2020/06/05
イシザル
細かい舞台設定は、弐瓶勉の漫画に似ているし、「インターステラー」「プロメテウス」の元ネタではないのかという気もする。エイリアンは、でてこないが、人間の中には、神も悪魔も共存しているっていわれるが、創造主にもなれるし、エイリアンにもなれるてことか。
2017/08/21
あかつや
再読。大江健三郎が書いたSF小説という変わり種。でも初読の時は、いつもの大江じゃねえかって感想だったな。大江を読みつけている人には何の違和感もなく入れるだろう。今回はもう少しSFの部分に注目して読んだが、SFとしてはやっぱり足りない。SF読者の欲求には応えてくれない。「新しい地球」があって、そこへ人類が移民するのはいいけど、SF読者的にはそれがどの程度離れていて、そこへの往復を十年で成し遂げるためにどんな航法が用いられたのかってのを知りたくなる。でも書いてない。そういう細部の部分がSF的じゃないのだろう。
2020/10/06
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