マノンの肉体 (講談社文庫 つ 27-2)
マノンの肉体 (講談社文庫 つ 27-2) / 感想・レビュー
翔亀
富士山が目に入る筈の場面で、あのラフカディオ・ハーンが富士山を描写していない(「知られぬ日本の面影」)。美しい肉体を誇っている筈の、あのマノンの容姿の描写がない(「マノン・レスコー」)。なるほどと思わせる<読み>が披露されるが、これは文芸評論というわけではない。富士山を望む江ノ島である筈のない映画館の小津映画に迷い込み、或いは、故郷の紀伊半島の殺人事件の検察調書に惹き込まれる。作家の身辺雑記っぽく始まるリアルな日記と鋭い評論が、いつの間にか幻想的な小説に変貌していく。この変貌に心を委ねることの快楽を知る。
2014/07/09
KAZOO
この小説は辻原さんのものにしてはかなり難しく感じました。ある意味実験小説的な感じもします。かなりい好き嫌いが分かれるのではないかと思います。私は辻原さんのこのような文体は好きなのですが、いつものエンターテイメント性をそぎ落としてしまっていて、夢の中にいるような感じがします。
2014/10/19
安南
『片瀬江ノ島』潮風と波のうねりを感じながら、主人公と共に江ノ島へ。ラフカディオ ハーンの「江ノ島行脚」を考察し、ある老婦人の映画館の記憶をたどりながら参道を行く。と、不意に時空は歪み、白昼夢に引きずり込まれる。既にここは異界のはずなのに頁を繰ってみてもどこからこのねじれが始まっていたのかわからない。そして、鮮やかなラスト!『マノンの肉体』自己免疫疾患のリアルな体感、帰郷のための列車内の描写。不可解な心中事件の記事。そして砂に埋れたマノンの遺体と「小町変相絵巻」の相似。まさに辻原登らしい一編。
2013/07/05
スイ
この作品を読むために、「マノン・レスコー」を読んだのだった。併せて読んで良かった、面白かった!収録されている三編とも、全てが解き明かされることはないのだけど、読み終えるとそれが消化不良にはならず、自分の一部が本の中に残っているような浮遊感を覚えたのが新鮮だった。
2016/10/08
つーさま
それぞれ異なるレベルにナラティブを置くことで、古典作品に眠る謎(例えば、表題作では『マノン・レスコー』のマノンの肉体描写はなぜ曖昧なのかということ)が少しずつ明らかにされていく。こうした類の小説は、どうしても構造ばかりに気をとられてしまうのだが、細部にまでリアルを追求しているせいか、それほど意識せずに読むことができた。後の『闇の奥』において、世界の裏側へと足を踏み入れてしまったような、現実とも虚構ともつかない感覚を覚えたが、この作品集に対しても、それには及ばないものの、似たような印象を受けた。
2013/08/27
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