夏の吐息 (講談社文庫 こ 47-7)
夏の吐息 (講談社文庫 こ 47-7) / 感想・レビュー
🐾Yoko Omoto🐾
酸いも甘いも噛み分けた大人の女たちの物語6編。彼女らは、現在の自分に確固たる不満があるわけではない。だが、過去の甘美な恋愛や、背徳に満ちた秘め事を振り返らずにいられない、そんな年齢だ。その姿は、狂おしいほどの情熱の中にもう身を置くことはないという、どこか寂寥とした雰囲気を漂わせてもいる。忘れえぬ出会いや別れを、懐かしい痛みとともに胸に秘めながら、剥き出しとは対極にある穏やかな熱を持つ彼女たち。男女の営みを介さずとも、精神的な繋がりを持つ関係性に共感できるのは、自分もそれなりに年を重ねたからだと実感した。
2016/08/19
じいじ
小池さんは、長編はもちろん短篇の名手だと思っています。『ソナチネ』『妻の女友達』は、再読したい傑作短篇集です。さて、今作の6短篇、どれも味わい深い小池さんらしい作品です。表題作は突然いなくなった夫に、淡々と妻が語り掛ける文体が面白い。ただ内容的には、妻の切なさだけは伝わってくるが、夫に共感できないのが残念。私は心に浸みる【秘めごと】が好きです。主人公・美年子(54歳・独身)に魅かれました。静かに待っていた、亡き親友の夫からの告白のひと言「明日の元日を、あなたと一緒に過ごしてみたくなりました」…。
2019/08/22
ミカママ
表題作だけど、妊娠した彼女をほうって失踪した男を6年も待ち続けるお話。男性からしたら美談なの?いや鬱陶しいんじゃないかなぁ。私的には100%あり得ませんね。『パロール』がピカイチ。父親ほど年の離れた男性との交情。(手をつなぐだけ)「肉体的な欲望をもって、精神的な愛情ももって、そこに言葉が欲しい」まさに理想、ですな。
2015/04/03
アッシュ姉
小池さんが贈る大人の恋愛短編集。カラッとした女とそうでない女が主人公の六編なので好みは分かれる。もう恋に煩わされることもなく達観している「秘めごと」の主人公が好きでした。早くあの境地まで到達したいものです。親子ほど歳の離れた男性との交流「パロール」、幼馴染との友愛「春爛漫」は、なぜだか分からないけど泣けてきました。六年前に失踪した恋人を永遠に待ち続けるという「夏の吐息」には全く共感できず、「夏の溜息」なんじゃないかと思う始末。私まだまだのようです。十年後に再読して違った感想が持てるように成長したい。
2016/07/11
なっく
2021年は直木賞夫婦の藤田宜永・小池真理子で読み初め。藤田宜永の遺作に続いて、小池真理子の得意技である短編集を読む。読んでいて鼻の奥がツンとなるこの感触は小池さんならでは。若い頃の燃え上がるような恋愛とは違って、老いとか死を何処かで意識しつつ、流れたり淀んだりする男女の感情の交錯がとても上手く描かれている。長く生きていれば、誰でもそれなりの過去があり、しがらみがあり、それを乗り越えるほどの勢いも強さもないし、先の見通しもないけれど、ひとときの安らぎや触れ合いを求めてしまう、それは誰にも責められない。
2021/01/08
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