治療塔惑星 (講談社文庫 お 2-19)
治療塔惑星 (講談社文庫 お 2-19) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『治療塔』の続編にして完結編。手法は前作と同様にSFであり、(おそらくは)地球外生命が製作した、病をも傷をも癒し、回復させる「治療塔」が物語の核となっている。このように述べると明るい未来であるかに見えかねないが、全体はその反対に、核戦争と原発事故後の、きわめてペシミスティックな世界である。そして、こうした未来と現代とを繋ぐのが原爆ドームであり、それこそが人類の「治療塔」だったのではないかという思いである。物語の末尾は「再来」、「恩寵」などの宗教的な言辞が連なるが、それはまさしく大江の悲痛な叫びなのだろう。
2015/01/02
モリータ
◆'91年1-9月『へるめす』連載、単行本は同年岩波書店刊、文庫は'08年刊。『治療塔』の続編。リッチャンによる書簡の体で、ほとんどの事件が伝聞として描かれるのでもどかしい。惑星/恒星間航行が可能な理屈とか時間感覚とか、そのあたりが説明なしに進むのもあり。あと最後に出てくる言語論は唐突に感じた。◆前作で感じた疑問は一部解消。「大出発」前の核戦争:中東など局地的に勃発。東京の状況:皇居跡は空港になっている(どういう設定…?)。
2022/01/06
イシザル
―世界最高峰の作家の1人である大江先生といえど 「エイリアン」「エイリアン2」の傑作は類のない完璧な流れは、無視できない存在であり、それどころか敬意すら感じる。この作品は、クリストファーノーラン監督で是非 映画化して頂きたい。メカニックデザインは大友克洋氏。隆伯父さんは、渡辺謙さんで。 あとは、ホワイトウォッシュでも結構。残念ではあるが現状ではいたしかねない。
2017/08/30
amanon
一読して、前作があっての本作何だな…と思わされた。正直言って、不満は小さくない。特に叛乱軍との攻防は、個人的にはかなり退屈。また、これはリツコに間接的に語らせるよりも、当事者である朔の手記という形にした方が良かったのでは?と思えてならない。ただ、あえてあのような形にした著者の明確な意思があったのでは?とも思わされる。そういう意味で、前作から改めて綿密に読み直す必要性を覚える。それと、気になるのは、本書で示唆される新しい宗教のスタイル。今後の世界宗教について考える際に、何がしかのモデルとなりうるのでは。
2022/08/20
井蛙
〈書かれたテクストは、著者の不在、受信者の不在、指示対象の不在、コンテクストの不在、コードの不在をも超えて存在しうるーそしてなおも読みうるものである。〉私たちには可能性としての希望だけが与えられている。治療塔=テクストを読むものは子供たち、つまり新しい人たちだ。しかもそのとき子供たちはもはや私たちの声を聴くことはない。"The falcon cannot hear the falconer." 私たちには希望だけがあり、その希望に託して書くことだけをかろうじて許されているのだ、不在の救い主に対する手紙を…
2019/08/07
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