あやめ 鰈 ひかがみ (講談社文庫 ま 53-2)
あやめ 鰈 ひかがみ (講談社文庫 ま 53-2) / 感想・レビュー
しずかな午後
松浦寿輝の小説を読むのは二冊目だが、だんだんとその空気感が分かってきた。今作は「あやめ」「鰈」「ひかがみ」という三作の連作短編集。主人公となるのは、いずれも半分死んでいるような男たち。何もかもが手遅れの、宙ぶらりんのまま、ほとんど頭も回っていないような男たち。とくに「鰈」のイメージは印象的だ。魚のカレイの入ったクーラーボックスを抱えた男が地下鉄をさまよう。しかし、買ってからどれだけの時間が経ったのか男にもわからない。ぷりぷりと新鮮なままなのか、それとも腐ってどろどろに溶けているのか、男はそれを抱え続ける。
2024/07/09
祐紀
松浦寿輝節と言い得るであろう、この現と幻との交錯、出入り。夢とも現実とも言えない、曖昧な時間での出来事。素晴らしい。
2009/05/04
tomo*tin
生と死の狭間に揺れる一夜の夢。美しく描かれる三つの頽廃。全く違う三篇ですが、それぞれがリンクし交差しながら素敵な幻想世界へと強制連行してくれます。とにかく「あやめ」は絶品。そして「鰈」で鳥肌。
2008/11/13
いのふみ
死んでいるのだろうが、死んでいないような醒めた意識による宙吊りの感覚に、冒頭から引き込まれた。泥濘の夢幻世界をつくりながら、現実と接地したままの絶妙な塩梅はどうやってつくられるのか、その手法が気になった。
2020/09/18
アレカヤシ
不確かな、過去、記憶、に絡め取られる存在の意識が描かれている。既に読んだ他の著作と似たテーマ。主人公は皆死人のようでもある。人生そのものみたいな(繰り返しの中に閉じ籠められ)ている。暗い冷たい海の底のようなこの本の世界は不思議に居心地がよい。ただ、「鰈」の主人公は、まるで10年後の自分の姿をみるようで、ぞっとした。 (いずれにせよ本当の現実、混じりっ気なしの現実、そこらに転がっている石くれのように硬い手応えのある現実などどこにもないのだ)P81
2018/05/21
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