ABC<阿部和重初期作品集> (講談社文庫 あ 86-3)
ABC<阿部和重初期作品集> (講談社文庫 あ 86-3) / 感想・レビュー
三柴ゆよし
表題作「ABC戦争」と「鏖(みなごろし)」以外は、いま別に無理して読むほどの価値はない若書きの凡作だと思うが、それでもちょっと元気をもらえる(?)作品群ではあった。記号的な小説と評するよりは、むしろ記号のほかには何もない小説であって、それ自体はAでも乙でもかまわない記号の磁場に吸い寄せられた、無節操な意味と意味が出会う。そこから物語の〈跳躍〉がはじまるのだが、果たしてそのアクションに頂点はあるのか。いやない、というか、そこに至るのをあえて迂遠に回避し続けるのが、特に「ABC戦争」に顕著な作者の戦略である。
2020/11/06
東京湾
「本当のことを探り始めたら、それはもう堂々めぐりに陥るしかないんだよ。それはやっぱりどこかでやめなければならないよ」当たり前の日常は気づけば破壊され、拗れた論理と壊れた感情が後に転がる。全六篇、いずれも本当に面白かった。突拍子もない謎理論や超展開を振りかざしながらも、それらすべては奇妙なほどに緻密であり、その作品世界に呑まれたが最後、物語の疾走感に乗せられるがまま一気読みしてしまう。破綻のさせ方が巧緻なのだ。小説の可能性を模索・実験しているようにも思える。「公爵夫人邸の午後のパーティー」「鏖」が特に良い。
2019/11/28
ちぇけら
出だしから「Y」は女性器であり「猥」である論功が繰り広げられる。阿部和重はやっぱりアホだなあと思いながら、ガキどもの戦争をニヤニヤしながら読み進めていた。お得意の暴力性と性的比喩のオンパレード。「あまりの性行為回数の多さによる男根の消費」なんて面白すぎるね。このわけわからんゴタゴタ感を楽しめれば阿部和重はサイコーの作家だと思う。
2018/05/31
鷹図
いずれも凝った語りの、方法論が先立つような短・中編が並ぶ。分けても表題作の『ABC戦争』は傑作。主人公の高校時代に起きた不良たちによる学校間のケチな抗争を、当時の関係者から丹念に聞き出し、まるで一つの社会的トピックスであったかのごとく考察するというもの。インタビュアーである主人公の、過度に学術的で真面目くさった標準語と、それに答える元ヤンたちの呑気な山形弁の対比が笑いを誘う。しかし決して「とぼけ芸」だけの語りではなく、手記であったりメタな視点であったり、重層的に入り組んでいて読み応えがある。
2012/01/05
耳クソ
個人的には後半の『無情の世界』組の方がわかりやすいので好みなのだけれど、前半の『ABC戦争』組みたいな虚構を虚構で突き破る企みが混ぜ合わされた『アメリカの夜』や『IP/NN』や神町サーガがやはり個人的に好きだと思った。あと、巻末のゲーム化会議は個人的には要らないように思えた──と、こうした読者の「個人的」な言葉が前面に引き出される快感は、90年代特有のものなのか阿部和重作品特有のものなのか、個人的には気になっている。
2021/06/05
感想・レビューをもっと見る