授乳 (講談社文庫 む 31-1)
授乳 (講談社文庫 む 31-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
著者の最初期の作品3篇を収録。表題作はデビュー作で、第46回(2003年)群像新人文学賞を受賞。他の2篇もそうだが、独特の世界観を開示する。その特異性はひとえに主人公の直子の閉じた世界は他者との交流を拒むのではなく、それ独自の基準で存在していることにある。それがわかりやすい形で提示されているのが「コイビト」である。すなわち、同種の存在をもう一人対置することで、相対化して見せてくれるからである。寓意的内向とでもいうのだろうか。村田沙耶香はその後もこうした世界を語り続けていくのであり、いわば彼女の原点か。
2021/09/21
absinthe
沙耶香様の初々しい作品集。母になってみたい中学生、母がほしい大学生。姉になりたい男の子。誰もがみんな、家族を求めている。でも、この家族は虚構だ。家族は既に形骸化してしまっている。皆が愛を求めて彷徨い、新たな答えを探してる。性愛、兄弟愛、親子愛、どれもこれもどこかで誰かが描いた幸せの絵に無理にはまり込もうとして挫折している。この普通への強制。
2019/11/04
夢追人009
文学界の異端児・村田沙耶香さんが完全にぶっ壊れてイカレタ3人の少女を描くデビュー作品集。本書の3人のヒロインはそれぞれに狂気すれすれの生き方をしていると思いますが、彼女達に正道を教え諭す強く立派な人格者は登場せず結局は本人が自覚するしかなくて、私は長い時間がかかってもいいからとにかく自分でしっかりと納得した上で危ない方向に道を踏み外さない様にして人生を歩んで欲しいなと願いますね。また解説に書かれている様に彼女らが壮絶なデトックス(浄化・解毒)で悪い物を全て吐き出した後に幸せになってくれたらと切に祈ります。
2019/02/03
シナモン
他の方のレビューで「授乳」がデビュー作と知った。短編集でもあるので、村田さん特有の狂気のエスカレート感みたいなのはそれほどでもなかったが、淡々とした文章の中のさりげない不気味さは健在だった。登場人物の内面の歪みの描写とは裏腹に親や友達との会話等は妙に明るく普通で、そのギャップがまた人の二面性、多面性みたいなものを浮かび上がらせる。それにしても村田さんの人間観察力ってすごいな。
2020/05/10
青蓮
「授乳」「コイビト」「御伽の部屋」3編収録。どの物語も理解と共感の枠を超えた作品。さすが、「クレイジー沙耶香」と言われるだけある。性や食べること、生きる上で必要な欲求を不衛生なものとして否定的に描き、ひたすら自己の精神世界、「内側」へと向かっていく。それらが崩壊した時、彼女達は「現実」を生きなければならない。果たしてそれに耐えられるのだろうか。一番ぞっとしたのは「コイビト」の、少女が恋人のように扱うぬいぐるみと肉体的に繋がりたいと願うシーン。何か不気味なものを感じてしまった。
2017/05/06
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