最後の命 (講談社文庫 な 85-1)
最後の命 (講談社文庫 な 85-1) / 感想・レビュー
夢追人009
人間の心の闇・暗部を隠さずに白日の下にさらし続ける中村文則さんの5冊目の長編小説。非道なホームレスの男達の集団レイプの犠牲になり挙句の果てに殺されてしまった憐れな精神薄弱女性「やっちり」の苦境を目の前で見ながら恐怖に怖じ気づき彼女を助けられなかった二人の少年、主人公の私と幼馴染の友・冴木。二人は共に罪悪感を抱いた事に変わりなく似た者同士ではあるのだけれど、決定的な違いは冴木がこの強烈な体験によりサディスティックな性向に目覚め身を滅ぼした事で、逆に主人公の悩みながらも逃げずに人生に立ち向かう姿勢を讃えたい。
2018/12/12
パトラッシュ
中村文則版『仮面の告白』か。聖セバスチャン殉教図発見に相当する少年期のレイプ現場目撃で、2少年の内心に怪物が生まれる。三島では同性愛の自覚にとどまったが、本書の2人は女への妄執へと成長していく。この凶暴な怪物を制御しようと苦闘した彼らは、アウトサイダーとして社会から脱落していく。語り手は香里のような病める女ばかり求め、友人の冴木は暴力的なセックスでしか満足しなくなり婦女暴行殺人犯として指名手配される。人は人らしく生きるべきというが、強烈な性的トラウマに囚われた人はどう人間らしく生きるべきか問いかけは重い。
2021/03/07
hit4papa
少年の頃に受けた精神的な傷が癒されぬまま大人になった男たちの物語です。あぁ、トラウマ話ね、と一言では片づけられない、逃げ場のない息苦しさを感じます。心的外傷が原因で犯罪に手を染めるというプロットは、あまりに陳腐です。懊悩にのたうち回る姿や、直情的な性向の表現に納得性がないと、読者は興味を惹かれないでしょう。その点では、あくまで男性視点ではありますが、成功している作品だと思います。ミステリの味付けをしたのも面白味という点で評価します(ここは意見が分かれそうだけど)。
2020/01/13
mocha
挫折しそうになりながらなんとか読了。壊れかけた自分の精神を覗き込む描写が続く。子どもの頃に負った傷を、ばい菌だらけの手で何度も何度も瘡蓋をはがし、大人になっても“大事に”傷を飼ってるみたいに。強姦のシーンには拒絶反応を覚え、潔癖症の「私」には同調しそうな怖さがある。濃く暗く病んだ世界。これが中村文則という人の世界なら、私には長居できそうにない。
2016/11/19
相田うえお
★★★☆☆21111【最後の命 (中村 文則さん)】例えば...あなたはアパートに住んでいたとします。鍵を掛けずに部屋を出て街をふらつき、しばらくしてから戻ってみると自分のベットに女性の死体が!さてどうします?すぐに警察に電話?ところが容疑者扱いされて身柄を拘束...。確たる証拠もないのにそれってどうなんだろ。で、数日間取り調べされて無罪だと判明し釈放。なんだかなぁ〜。ま、本作品、そこはあくまで書き出し。過去の強烈な体験によって、心の奥底に潜んでいた捻じ曲がったものが騒ぎ出したら...怖いねぇ〜。
2021/11/07
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