そろそろ旅に (講談社文庫 ま 41-4)
そろそろ旅に (講談社文庫 ま 41-4) / 感想・レビュー
goro@80.7
なんだか己のように身につまされた十返舎一九の物語でありました。故郷も捨て武士も捨て流されるように自分の居所を探すような与七郎の姿が愛おしくて切なくて遣る瀬無い。男なら判る!と何度頷いたことでしょう…。運がいいのかフラフラと腰が落ち着かないところなど、まぁ若旦那にも廓通いにも縁は無いがあぁこれは俺の事かと思うのです。俺とは違い一九さんは女の方が放っておかないんだね~しかし女房を泣かせすぎやで一九さん!京伝、馬琴、三馬とそんな時代だったのだね。一九さんそろそろ旅に出てもいいですかね。
2019/03/28
saga
奥付は2011年3月15日第1刷。この頃読んだ本(何かは失念!)に触発されて江戸の紀行に関連する本を数冊購入したうちの一冊。変な先入観が無かった分、十返舎一九の伝記的小説ということも意識になかったため、読む驚きがあった。山東京伝、馬琴、写楽、豊国、北斎等々、教科書に出てくる有名人が同時代にいた凄さ。臣従する太吉という不思議なキャラクター。一九という戯作者の生涯を通して、江戸の生活が伝わってきて良かった。
2016/11/06
ロッキー
『東海道中膝栗毛』の著者、十返舎一九の若かりし頃の話。大坂と江戸の町人の生活が活き活きと描かれていた。やはり全く異なるものですね。戯作の世界だけでなく江戸文化の香遊びや人形浄瑠璃といったのも出てきて楽しめた。一九は素直で思いやりがあるんだけど、反面、この男はひとつの場所にじっとはしておられず、つなぎ止めて置くのは無理だろうと思うと薄情のような憎たらしく見えてしまった。でもそこから傑作が生まれた訳だが。あとは、弥次喜多道中のような話を勝手に思い込んでいただけにちょっと残念だったかなあ。
2011/06/20
kishikan
江戸時代の歌舞伎や芸能などを書かせたら、右に出る者はいない松井今朝子さんが、十返舎一九のことを書いた本。今回も、浄瑠璃、歌舞伎、花街なども交え、当時の生活風景が目に浮かぶ。それにこの物語の一九の話は結構史実に沿っていて、加えて様々な登場人物の性格を独自の視点で色付けしているので更に味わい深くしている。一九と言えば「野次、喜多の二人」なので、ここでも死別した幼友達の霊を引き連れているが、この謎が最後に明かされるというミステリ構成は、松井さんの新機軸だ!唯一、一九の煮え切らない性格に、苛々するところが欠点。
2011/06/02
駄目男
まあ、何と言うか時代小説は斯くありなんとでも申しましょうか、素晴らしい書き手ですね。感心したのはストーリー以上に、その表現ですね、江戸言葉や武家言葉の何と巧みなことか。まるで江戸時代の人が書いているようで流石に直木賞作家だけあって絶賛したい。主人公は重田与七郎貞一という武士で、同心から戯作者になった将来の十返舎一九の物語だが、「東海道中膝栗毛」を書く手前あたりで筋書きは終わる。文体の鮮やかさに参った。故事、ことわざなどを巧みに取り入れ、恐ろしく教養豊かな女性で、時代小説作家としては理想的と言ってもいい。
2020/04/01
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