わが母の記 (講談社文庫 い 5-12)
わが母の記 (講談社文庫 い 5-12) / 感想・レビュー
あすなろ
ほぼ全て読了している筈で多分取りこぼしている井上靖氏の作品。介護録的私小説集。テーマではないが、ある年老いた男性が風呂敷に大きな荷物を背負い、家を出て行こうとしている。皆で止めると、養子に入った頃の事を思い出したのか、里へ帰るという。これが強烈に印象に残ったが、子に還ることを筆に載せる。加えて状況感覚の中で生きているのではないかと問う。実に久しぶりの井上靖氏私小説の中で、老い行く様を描いた物を読んだ記憶ない。実に様々な氏の私小説的作品達は僕の青少年時代の形見だが、この作品もその後を連ねて行くだろう。
2019/01/27
chimako
年をとるということは悲しいことなのか、幸せなことなのか。これは井上靖氏のお母さまに描いた3部作。色々な事を忘れたり、一つのことに執着したり、最後には娘も息子もわからなくなってしまう。もちろん自分に靖という息子がいることはわかるのだが、書斎で毎日物を書いている男の人が息子だとは認識出来ない。娘は「おばあさん」と呼ばれお手伝いさんだと思われる。そのお母さまを家族のみんなが「今おばあちゃんは30代ね」などと暖かく見つめる。自分のこれからに思いをはせる。誰を一番に思い出すのだろ。怖いようでもあり、楽しみでもある。
2014/08/17
ソーダポップ
この本の著者、井上靖氏が実母の80歳から亡くなる89歳までの9年間を書き記した、小説とも随筆ともつかぬ形で老いた母の姿について綴られた著書です。年老いて記憶も曖昧な、壊れたレコード盤のように同じことを繰り返し話す母親。そんな母親に辟易しながらも家族の深い絆が描かれています。
2021/05/15
mymtskd
自分の母親の晩年の10年間が愛情のこもった美しい文章で記されている。時代は昭和30年代から40年代にかけてなので、介護や認知症といった言葉もなく、まして介護施設や行政の対応も何もない中で家族が代わる代わる認知症の母親の面倒を見ている様子が描かれる。まさに介護そのものであり家族の奮闘の記録なのだが、文学的な雰囲気が漂いあまり生々しくないのがよい。
2019/08/30
さゆ
中学2年か3年の頃『夏草冬濤』を読んだ。井上靖の自伝的要素が強い『しろばんば』の3部作です。どういう事情があったのか、洪作少年の目線で語られているこの3部作ではよく分からないけれど、親の愛情が薄い洪作の寂しさは行間からにじみでてくるような本だった。子ども心に「捨てられた」と感じても仕方ないような状況下で育った子どもと、その年老いた母親の関わりが淡々と語られている。この本の中で「壊れた」「耄碌した」「子どもに還る」いろいろな表現はあるけれど、老いるとは、やはり哀しいことなんだなと思う。
2012/03/24
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