新装版 絃の聖域 (講談社文庫 く 2-50)
新装版 絃の聖域 (講談社文庫 く 2-50) / 感想・レビュー
夜間飛行
名探偵・伊集院大介の初登場作。長唄の家元宅で女弟子が殺され、一門を揺るがす騒動となる。三味線という芸の艶めかしさに愛憎の絡み合う旧家…その中心には氷の冷たさと炎の熱さを併せ持つ八重という女がいる。細部まで張り巡らされたロジックは本格ミステリとしても際立つが、本作は十代の少年少女の心に焦点を当てている。彼らの一途な行動が強固なミステリ空間への挑戦とも受け取れた。思うに、芸道に絡め取られた旧家の人々の〝生〟を解き放つ物語性そのものが、一種のアンチミステリへの志向といえようか。作者の多彩な作風が思い起こされた。
2024/01/14
🐾Yoko Omoto🐾
読友さん紹介本。名探偵「伊集院大介」シリーズ一作目。こんな面白い作品を今の今まで未読だったとは!!恥美で妖艶な古典の雰囲気を纏いながら、探偵小説かくありきと謳えるほど魅力溢れる作品。長唄の人間国宝を家元に持つ「安東家」を舞台に現実社会と隔絶された芸の世界に生きる人間たちの悲劇が描かれる。「芸」という姿なき怪物に全てを捧げざるをえない使命と苦悩、愛する者に対する狂おしいまでの愛憎の念が痛ましくも見事に描かれる。また連続殺人事件の真相は本格ものとしても秀逸で、女性作家らしい繊細な描写に圧倒された。傑作。
2014/08/25
セウテス
伊集院シリーズ第1弾。吉川英治文学新人賞を受賞して、栗本薫氏が作家としての契機になった作品ですが、先ずは「ぼくらの時代」と全く違う作風に驚きます。京極夏彦氏の作品の原典の様に感じる、殺人事件の背景に長唄界の特殊な環境や、家元を中心とした一般社会と一線をひく精神世界の構築が成されています。ミステリーとしても、独特の範囲の中で起きる連続殺人にトリックと探偵、必要事項は全て揃っており惹き付けられない理由はありません。技巧だけではなく、人の心理を細かく描いた物語であり、故にラストで受ける心の震えは強烈に残ります。
2015/12/25
papako
高校生くらいの頃に読んだ栗本薫が懐かしくて、どれか読もうとこちらを選びました。40年前に書かれているんですね。けれど、会話文以外はそれほど時代を感じませんでした。三味線の名家でおこる殺人、所轄の刑事山科と塾の講師の伊集院大介が飲み込まれる芸事の旧家という世界。三味線の芸と愛憎にまみれた三世代にも及ぶ執着の物語。ちょっと間延び感はあったけど、飽きずには読めました。そういえば栗本作品BLだったなぁ。こんなにあからさまだったんだ。機会があれば伊集院大介の冒険とか再読してみよ。いや天狼星か?
2020/01/27
カナン
伝統と格式の高い邸で起こる事件の被害者には「格」が必要である。三味線という艶美な芸の世界にはそれに相応しい犠牲者があってこそであるのに、殺められるのは舞台の端っこにかろうじて立つのを許されたような、いてもいなくても変わらぬような脇役たち。老齢の人間国宝も、美貌の女も、鏡写しの美しい姉弟も、妾の子も、何故か「生きてしまって」いるという、珍妙な事件が幕を開ける。絃の聖域は侵されることなく寂として、ふと邸そのものが抱え込んだ澱の深さを思い出しては慄くように震え、そっと鳴る。テチチリチツツツン、テツツン、シャン。
2017/06/21
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