獣の樹 (講談社文庫 ま 49-9)
獣の樹 (講談社文庫 ま 49-9) / 感想・レビュー
南雲吾朗
まさにエンターテインメント。たった一人の少年(?)について、これだけ多彩な出来事を良く思いついたものだと感心するばかり。舞城王太郎って、本当に人間なの?この人の知識、思想は人知を超えている。 「秩序は権利を制限することから生まれるのだし、秩序を守るということはその制限を受け入れるという事なのだ。」正に真理だ。着地点のない面白さ。これが舞城氏の小説なんだろうなぁ。
2023/02/25
そふぃあ
疾走感とクセのあるいつも通りの舞城で、やっぱり面白かった。望まない悲しみを背負った子供たちへのメッセージ性があると思う。牛若が家族のいない牧場に留まりたがるのは、「ここは最悪だけど、他に行くあてなんてない。ここでしか生きていけない」という虐待児の発想。楡が蛇に両足を喰われたのに蛇に執着するのは、幼児期から性的暴行を受けた子供が売春する傾向に走りやすいことへのメタファーだと思った。「名付け」の話は非常に大切なことだと思う。牛柄を強みにできるように、立派な「牛若」という名前を付けたくだりには愛を感じた。
2019/11/13
ちぇけら
成雄は馬から生まれて(←あ)、蛇たちは戦争を起こす。成雄は駆ける駆けるどこまでも。僕は何者なのかと成雄は考えるけれどぼくはそんなことどうでもいいじゃないかと初めから思う。君は君だよと誰かが言っていてぼくもそれに賛同する。しかし結局アイデンティティというものは自分で獲得するしかない。どこまでも駆けるためには自分の足を動かすしかないように。何よりも大切な人を思いつづけ守りぬくときのように。きぃぃいいいんと何かがぼくの琴線にふれる。とても大切なことだと教えられる。だからぼくも走りだす。何かを守り獲得するために。
2019/02/10
相生
14歳で生まれた少年のアイデンティティを巡る話。一言でまとめてしまえばそうなのだけど、この作家の手によって、そのまったくのゼロから始まる人格の容器が好き放題されてしまう(勿論良い意味で)、といった印象、です。語り手の少年が経験し信じたことはすぐに顛倒し、それが物語に流れもしくは捩れを生んでいるのだと思うけど、それとこの作家の疾走するような爽快な文体と語り口が噛み合っていて、物語全体としての形が崩れないでいるのかなあ、とか。つまり読んでいると完全に乗せられちゃうのです。
2017/08/15
なしかれー
馬から産まれたナルオの話。暫く本を読める状況ではなくて、久しぶりの読書にこの本を選んだのは直感だったけど、良かったのか悪かったのか何とも言い難い。アイデンティティを模索する青春小説と思いきや、え!?ミステリだったの!?からの、え、SF!?いやいや、ボーイミーツガール的純文学じゃないの?みたいな話を信じられないスピード感と共に読む強烈な体験。そう、舞城とはこういう作品を書く人だった。ボーダレス。けど、リハビリにはむいてなかったな。。横っ面叩かれた感じで良かった気もするけど...。まあ、要するに、好きです。
2017/07/07
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