シンセミア(下) (講談社文庫 あ 86-7)
シンセミア(下) (講談社文庫 あ 86-7) / 感想・レビュー
かみぶくろ
どうしようもないほどに傑作だった。
2017/04/09
Y2K☮
東北のとある町を襲ったグロテスクで救いの無い悲劇。話の中心である「田宮家」から一字を取ると隠された趣旨が浮かぶ問題作。大洪水は戦争で、暴走する盗撮サークルと自警団は特高や旧日本軍か。明らかに慰安婦を意図した箇所もある。村上春樹もそうだが大江健三郎系は時にシュートを多投し過ぎる。私はあそこまで鋭く胸元を抉る球は投げられないので、スライダーとのコンビネーションでバランスよく勝負していきたい。とはいえ六十数名の登場人物にまとめを付けたのは見事だし群像劇のお手本には違いない。感情移入できるキャラが一人いればなあ。
2015/04/29
葵
ミニマリズム?そんなものは犬に食わせておけ!総勢60名以上の下衆野郎が織りなす田舎町の狂騒。露悪的で大変胸糞な良質作品でございます。いい人って、面白かったり見た目もある程度ちゃんとしてたりする割に、なんかこうそれ故にいろんなことを考えて揺らいでいる部分があって、それに対して、クズって本当に結構一から十までクズだったりして、しかも無駄に揺るぎない。ある種の誠実さすら感じる。中でも純情をヘドロでくるんだような男、中山正が大好きだ!スカトロ、ロリコン、暴力というクズぶりを爆発させ、下巻はますます快調であった。
2024/08/25
ソングライン
盗撮グループの悪意の矛先がパン屋一家に向けられ、彼らは街の住民から無視され、ついには迫害を受け、急激に没落し、主人とその長男は非業の死を遂げます。さらに幼児趣味の警官、老人殺しの男、盗撮グループの青年たちも罰を受けるがごとく殺され、事故で亡くなります。一夏の間に起きた地方都市の死亡事件は、人間の欲望の醜さと本当の悪意の存在を浮き彫りにします。救いのない物語、読む前に覚悟のいる1冊です。
2020/11/21
ネムル
箱庭が作られたからには、壊されなければならない。箱庭が一旦壊されたからには、再生されなければならない(それは次作以降の課題か?)。初期タラもコーエン兄弟もドヤ感から必ずしも好きではないのだが、本作の勢いと精緻さをやはり支持したい。素晴らしかった。かつては明るい昼から暗い夜を作り変えられた虚構だが、ここでは逆に洪水が米軍占領期に遡る街の偽史を白日の下にさらした。だがここにあるのもフェイクとしての歴史だ。なんともカッコいい本だ、パルプ・フィクションはかくありたい。
2017/08/16
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