尼僧とキューピッドの弓 (講談社文庫 た 74-3)
尼僧とキューピッドの弓 (講談社文庫 た 74-3) / 感想・レビュー
rico
尼僧修道院のくらしを描く前半は、多和田さん自身の体験がベースになっていて(多分)上質のルポのよう。歴史ある建物が持つ静けさ、ひんやりとした空気感。でも尼僧たちはひたすら信仰に身を委ねて清らかにというよりは、普通に色々やらかしてて、何だか女子寮の学生みたい。当然か。彼女たちは様々な人生を歩みここにたどり着いた生身の人間なのだから。それ故、後半の煩悩全開の物語にも納得感。彼女たちの綽名は、透明美、老桃、火瀬、鹿森、等。弓道とキューピッド、その矢で射られて恋に落ちる。巧みな言葉の使い方が印象的。不思議な読後感。
2024/05/24
aoringo
第一部はドイツにある修道院の尼僧たちの日常を描いており、第二部は尼僧院長の過去の回想。尼僧たちの生活はとてもおおらかで祈りのなかで生きるというより、いかにして円滑に暮らしていくかが大事で、尼僧同士のかけひきや率直なやり取りが人間らしく感じられた。最初はちょっと読みにくいかなと思ったが、言葉の選びかたが特徴的で印象に残るフレーズがたくさんあった。噛みしめるようにして読んで楽しめました。
2018/06/29
こばまり
なんと軽やかなフシギな小説なのだろう。読んでいる間ずっと、フワフワと夢見心地であった。人は人生というストーリーを生き、他者の生き方に興味を抱き、あまつさえ古今東西のお話を読む。人間とは何と物語を欲する生き物なのだろう。
2016/12/04
とりあえず…
特にこれといった目的もなく「知りたい」という欲求のまま、尼僧院という閉鎖的で時代に置き去りにされた空間に紛れ込んだ物書き。尼僧達(ドイツ人)に第一印象でつける漢字の渾名「透明美」「火瀬」「陰休」がユニークだ。物書きの目を通して見た尼僧院はイメージよりもずっと現代的なかしましさに満ちていた。ですが、尼僧達と物書きのやりとりは真っ直ぐで純粋で、それゆえのややこしさはあるものの、好ましく感じた。「修道院では年をとった方が勝ち」だそうですよ。
2015/01/22
sin
顔の見えない異国の登場人物に語り手が漢字の呼び名を宛てるからか、目的の見えない語り手の憶測と先入観が右往左往する様がそうさせるのか、語りたいことが理解出来ない前段と、その前段でおきざりにされた謎の部分が明かされる後半、しかし謎とは言っても語られてみればただの人生であることの肩すかし観。作者は一体何を語っているのだろうという宙ぶらりんな状態の侭、物語は終わるとも無く読み終えてしまった。
2014/05/18
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