藁にもすがる獣たち (講談社文庫 そ 8-3)
藁にもすがる獣たち (講談社文庫 そ 8-3) / 感想・レビュー
しんたろー
曽根圭介さん初読み。家業の床屋を畳みバイトしている還暦間際の寛治、ヤクザに借金があるのに飄々としてる悪徳刑事の江波戸、借金とDV夫を抱え工場とデリヘルで働く美奈、行き詰っている三人を交互に描くストーリーは暗い話なのにブラックコメディのように感じる。寛治と奈美の話は家族や夫婦の難しさが身につまされて共感するし、江波戸の堕落は「しょうがねぇ奴」と笑いながら許せてしまう。軽い認知症の頑固な母親を持つ寛治には親近感さえ抱いた。人のダメっぷりを叙述トリック的な軽快サスペンスとして成立させた腕前は大したものだと思う。
2021/02/11
まこみん
サウナでバイトする還暦の元理髪店店主寛治、FXで多大な負債を抱えてデリヘルする主婦美奈、暴力団絡み闇にどっぷり浸かる刑事良介、この3人が大金を追い転落していく様を、一気に駆け抜けるように読ませてくれる。その中では寛治がまともな方と思えたけど、大金を前に己の弱さに負けてしまう。夫の暴力と関白に耐える美奈には同情の感もあったけど短絡的な行動し過ぎ。英姫の狡猾で腹黒悪女な態度と、それに対し余りにも腑抜けな良介には苛つく。時系列がああなっていたと気づかされてラストへ。寛治の半認知症の母、富子の存在感強かった。
2016/11/03
タイ子
主な登場人物は3人の男女。還暦を迎えてやっとサウナのバイトにありついた男。夫からDVを受けながら内緒でデリヘリで小遣い稼ぎをする主婦。絵に描いたような悪徳刑事。サウナの客が預けていった大金が客の戻らないまま残された。サウナのバイト男、ついにバッグに手をつけた。デリヘリ主婦は仕事で出会った若い男に夫の殺人を持ち掛け、男は実行するがやっちまったのは別人だった。悪徳刑事は暴力団からの借金を返すため悪戦苦闘の日々。別々の哀れな3人の人生があれよあれよと交差、繋がっていく。金に憑かれ狂っていく人生、哀し。面白い!
2020/09/20
アッシュ姉
ろくでなしたちの狂宴による痛快な転落小説。バイトで生計を立てる還暦前の元理髪師、暴力団への借金返済に窮する悪徳刑事、FXで抱えた負債のためデリヘルで働く主婦。もがくほどに泥沼にはまり、三者三様に追い込まれて破滅への道を突き進んでいく。ブラックユーモアが効いており、ハラハラするのにニヤニヤしてしまう。曽根さん三冊目なので仕掛けはある程度予想でき、パズルの答え合わせをするように楽しめた。全てが繋がった瞬間は爽快。この快感くせになる。短編の方がピリッとしたインパクトがあるが、長編もテンポよく面白かった。
2016/10/06
セウテス
非常に読みやすくテンポも良いので、サクッと一気読み。たった数行の文章で、今まで描いて来た物語がひっくり返り、「おっ~、そういう事ね」となる感覚が楽しい作風なのだろう。2度目は無いのが本格ミステリと違って勿体ない処だが、たしかに癖になる感覚だ。痴ほう症の母親を抱えた男、ヤクザから金を借りてしまった刑事、財テクに失敗し風俗で働く主婦の3人。ちょっと気の毒な事もあるのだが、金に取りつかれた様に欲を出して、しっぺ返しをくらうという展開。バラバラの話が、最後に収まる処に収まる様に進むのは、不思議な読みごたえである。
2017/11/07
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