すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫 か 112-4)
すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫 か 112-4) / 感想・レビュー
風眠
(再読)現実は、自分が望む事と必ずしも一致しない。そうありたかった、そんな風になりたかった。そんな自分を演じて、ひととき現実の苦しさを忘れるように、冬子と三束さんは夢の中でしか実現できない、理想の自分を生きたのだと思う。恋のような、もの、のなかで。現実の自分とは違う、なりたかった自分。だから現実に帰ると余計に苦しくなる。自分に苦しくなって、現実の恋へと踏み出すことができずに。それでも夢見ることはできる。たとえ現実のなかにいても。真夜中の、つくり物の光みたいに、朝になれば消えてしまう、儚い光のような恋の夢。
2016/05/28
抹茶モナカ
34歳のフリーの校閲者の入江冬子の不器用な恋の物語。読みやすい文体。切ない恋模様。お酒が飲みたくなる本。素敵なタイトルと裏腹に58歳の男との恋なので、驚いた。川上弘美さんの『センセイの鞄』とは、また違った年の差のある恋の話。入江冬子の不器用な感じが、切なく、何かを選びながら生きる事について、しんと考えた。
2016/08/08
そる
大きな事は何もないのに心に浮かんだ情景の表現とか、自分の気持ちの表し方が丁寧で美しく描かれて言葉も綺麗で、静謐な印象の話。出会った男性に少しずつ惹かれていくその過程がすごくよくわかる。一歩間違えばストーカーと言われかねない想い方。また出会って友達っぽくなった女性との言い争いもよくわかる。「ただ好きなだけ」や「自分から行動しない」を理解できない人はいるもんね。「携帯電話を両手に包んで胸におき、それからまたぎゅっとにぎり、さっきの三束さんの声のぜんぶを何十回も何百回も頭のなかでくりかえしながら、目を閉じた。」
2023/03/07
ykmmr (^_^)
川上未映子さん初読。その、『物語』に引き込まれるような題名に惹かれて読んでみたいと思った。そして、人生の脂が乗ってきた30代に、水筒に酒を入れて持ち歩く女性、冬子。その大胆行動とは裏腹に、内向的で不器用。建前で本当の姿を封印している自分みたいだ。引き込まれる題名を象徴する夜長の様子や、物語を彩るピアノの美しい表現と、また裏腹に、突然現れた男性ともどかしい恋をして、何だか不思議な友人と、精神の小じりを合わせていく。冬子と聖は一種の『同性愛』のニュアンスもあるのか?
2022/09/10
❁かな❁
とても美しい文章で心地よく最初の1ページを読んだだけで好きって思える。川上未映子さんの文章は流れるように私の心に優しく降り注ぐ。真夜中の静寂、澄んだ空気、遠くで瞬く星々など感じ、実際に真夜中のお散歩をしている感覚になる。内向的で恋愛経験がほとんどない冬子と年上で物静かな三束さん。少しずつ自分の気持ちに気づいていく冬子。下の名前で初めて呼ばれる喜び、食べ物の好き嫌いや学生時代にしていた部活を知るなど他愛もないやり取りで嬉しくなる気持ちもよくわかる。後半切なくて涙が溢れた。装丁も素敵。繊細で切なく美しい物語*
2016/10/07
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