オリンピックの身代金(下) (講談社文庫 お 84-9)
オリンピックの身代金(下) (講談社文庫 お 84-9) / 感想・レビュー
修一朗
下巻は手に汗握る追跡劇。もう少しのところで取り逃がす失態を繰り返す警察のあせりだったり,公安部と刑事部の軋轢だったり組織の緻密な描写が秀逸だ。構成が素晴らしいのでオリンピックを脅迫する島崎を,結末はわかっているのに「逃げ切れ!」と共感してしまう。1964年のオリンピックは東北の貧村出身の出稼ぎ人夫の人柱の上に創り上げられた。2020年のオリンピックは出稼ぎ外国人の汗で創り上げるのだろう。昭和39年のオリンピック都市東京の影を描き切った傑作だ。今月のベスト。
2019/10/19
あきぽん
下巻は「逃げる犯罪者」vs「追う警察」の緊迫したクライムサスペンスでした。それにしても権力は都合の悪いものはないことにしてしまいますよね。昭和39年も、令和3年も変わっていない。弱者は虫けらでしかない。ラストは普通の娘さんのエピソードでほっとしました。
2021/05/11
hiro
初めて読んだ奥田作品である伊良部シリーズとは全く違う作品だが、上下巻の長編でも一気に読んでしまう作品だった。もっとも、出稼ぎ労働者でオリンピックの工事現場で働く兄の死をきっかけに、ヒロポンに手を出しダイナマイトを手に入れ、オリンピックを人質に身代金を要求する犯罪者となっていく国男をみているのはつらかった。島崎刑事らの警察側のパートと国男のパートの時間差がある章立てにより、警察側の緊迫度を感じて読むことができ終盤まで一気に読んだが、最後の最後になって結末が知りたくなく、読み終えるまで時間がかかってしまった。
2020/12/01
ehirano1
読み方によっては「戦争(第二次大戦)では負けてボロボロになったけど、復興してオリンピックホスト国までに登りつめ、経済で大戦の負けを返した」、とも読めるのではないかと思いました。しかし、それは大戦で艱難辛苦を味わった国民全てに還元されていたわけではなく、裕福層はより裕福に、貧困層はそれほど変わらず、に留まり、将来の希望である若者をテロリストへと変えていく・・・。もっと他の別の方法で貧困層を救っていく手段もあったのではないでしょうか、それともただ単に若狭所以なのでしょうか。大いに考えさせれた作品でした。
2016/06/25
stobe1904
【東京五輪を狙う爆弾テロ】1964東京五輪開会式の爆弾テロの身代金として8000万円を要求する島崎、それを阻止すべく死力を尽くす警視庁。公安部と刑事部の壮絶なせめぎ合い、島崎と警察の息詰まる攻防戦など『罪の轍』同様、圧倒的な緊迫感で迫ってきて読む手が止まらなかった。幕切れに賛否両論があるとは思うが、それをさておいても素晴らしい出来だと思う。読了後、現実に戻るのに若干の時間を要するほど没頭してしまった…。★★★★★
2020/07/22
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