アメリカの影 (講談社文芸文庫 かP 2)
アメリカの影 (講談社文芸文庫 かP 2) / 感想・レビュー
佐島楓
文芸評論の文脈から戦後論にスライドしていく筆力が見事で、なかなかすごいものを読んだなと感服した。私の世代ではこういう捉え方(アメリカ従属への反発及び諦観的な文学研究)はおそらくもう出来ないし、アメリカとの関係性も変化し、文学そのものも非政治的になり変質してきている。これからは失われた20年(もう30年になってしまう)文学というジャンルになっていくのだろうか。私の持つ情報が古いので、アップデートする必要を強く感じた。
2019/08/28
ころこ
4読目くらいですが、新たな発見がたくさんありました。まず、読んでもよく分からない『なんクリ』と『限ブルー』が日米関係の隠喩として読解されます。江藤淳という右翼かマザコンか一筋縄ではいかない批評家の屈折した論は、両作の社会的評価を転倒させているのがまたややこしい。その江藤の無意識に、後に展開される『敗戦後論』の「ねじれ」をみています。それも、加藤が江藤を批判しているのか、アメリカに渡ったことで逆照射された日本の姿に到達した江藤を評価しているのか分かりません。なお、80年代になって、日米関係だけでなく慰安婦問
2019/11/22
しゅん
文芸評論家のデビュー作なのに文学の話をほとんどしていなくて驚いた。『敗戦後論』の10年以上前から、加藤典洋は「戦後」について考えていたのだな。江藤淳が村上龍を評価せず、田中康夫を評価していることから、「なんとなく、クリスタル」が生きる日本の「弱さ」を指摘する論は鮮やか。無条件降伏に関する論は、評価しようにも否定しようにも「戦後」を強化してしまうという後まで筆者がこだわる論点の出発点。当時の資料を細かく確認しているところに本気を感じる。
2017/10/26
ネムル
江藤淳の『なんとなく、クリスタル』への評価、『限りなく透明に近いブルー』の否定。この冒頭がまずもって面白いが、そこから『成熟と喪失』における母(自然)の喪失と個人の確立というイデーと、その後の江藤の屈折、弱さへの自覚へと話を広げる手筋が鮮やかだ。また、後の「ねじれ」の萌芽にも見える。『敗戦後論』は加藤がナイーブ過ぎやしないかと少し眉唾にも感じたが、デビュー作となるこちらでは対象となる江藤がまずナイーブになので気にはならず。
2020/05/22
しゅん
再読。「無条件降伏」についての文書から、ルーズヴェルトの思想を読み解く。原爆投下もその延長にある。そこには日本と同じ「全体主義」的な国家観が見られ、であるならば太平洋戦争は力vs.力の争いでしかない。思想を曲げるものではない。にもかかわらず、日本が戦後すぐにアメリカを受け入れてしまったことへの不思議さ。加藤は途中、吉本隆明の「包み込む国家観(日本)と傘のように乗っかってる国家観(西洋)」の対比を引用しているが、この「包まれ」感がどうにも根が深く感じられる。「包まれ」ない在り方を求める先は失望のみだろうか。
2020/09/18
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