やさしい女・白夜 (講談社文芸文庫 トA 2)
やさしい女・白夜 (講談社文芸文庫 トA 2) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
ドストエフスキーの作風の変化がよく分かる二つの中編。「白夜」は初期に、「やさしい女」は後期に書かれた。「白夜」はリアリズムの小説で、優しい雰囲気がある。主人公の若者の哀しい片想いがペテルブルクの街という背景を生かしながら、抒情的に描かれる。「やさしい女」は主人公の独白で物語が進んでいき、人間の心の深淵が鮮やかに描かれている。主人公と結婚した女性は自らの命を絶ってしまうのだが、彼女が自殺した理由は掴みにくい。自殺の方法が象徴的で読み手の心に深い印象を残す。(続きます)
2018/02/16
市太郎
2つの中篇。愛にまつわる悲劇を収録。「やさしい女」は著者まえがきで主人公の男がどんな状況に置かれているか書かれてある。哀しみを呼ぶが、一体どうしたらいいのだろうという最中で混沌とした男の独白によって生と死が触れ合う瞬間が表出される。男は必ずしも良い人間ではなかったが、良い夫であろうとした。妻を愛しているからこそ。しかし妻は追いかけることの出来ない世界へと飛び出した。「白夜」でも報われない愛を描いているが、戯曲的でちょっと滑稽にも思える。人は夢想し孤独であってもやはり愛を求めるが現実の何と残酷なことか!
2014/01/31
にゃおんある
やさしい女。自分は何者なのか、彼女は何者だったのか…… 妻という試みの鋳型に嵌めようとしたのか、抗うのではなく肯うのでもない、拒否。神託の意味を取り違えてしまったのか、あと一歩のところで破綻してしまう。「われは悪をなさんと欲しながら、善をなすあの大いなる一部ですよ」 このメフィストの言葉を裏打ちしてしまう。見せかけの愛、つなぎ目を埋めていたものが剥がれてしまい、彼女は堕ちたのではなく、高みに飛翔していった、そう考えるべきだったのか。サーキットブレーカーがいつ働くのか読めない世界にいるのだから、仕方がない。
2020/01/31
田中
中編作品(井桁貞義訳)である。愛の方向性が真逆の男女を描く「やさしい女」は哀しい。男が妻を冷徹に扱う異様な愛情が、必然的に妻をおいつめた。彼女が黙考する様が不気味だ。両者の複雑な心の推移を表象させるが、理解するのがなかなか難しい話だった。「白夜」は初期ドストエフスキーの作品。可憐なナースチェンカに一目惚れした男の深層を描く。心象が渦巻くようにうねり叫ぶのだ。男はナースチェンカに翻弄されてしまい、自分自身をなんとか納得させようと懸命になるのが虚しい。「白夜」は小沼文彦訳(角川文庫)の方が劇的だろう。
2024/01/16
長谷川透
『鰐』と同様、「やさしい女」「白夜」の二篇を収録した本書もまた、ドストエフスキーのイメージを覆してくれた。本書の場合、ドストエフスキー特有の物語の慌ただしさ、怒涛に溢れる登場人物の独白、愉快な冗長さは鳴りを潜め、静かで美しく、副題にあるように、幻想的な物語である。幻想を生むのは物語世界にある<曖昧>である。「やさしい女」では、自殺した妻の遺体の前で主人公が過去を回想し、生と死、現在と過去が綯い交ぜになり曖昧を生む。「白夜」の場合は、昼とも夜ともつかない白夜を舞台にし、白昼夢を見ているような感じがした。
2013/01/17
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