地の果て 至上の時 (講談社文芸文庫 なA 8)
地の果て 至上の時 (講談社文芸文庫 なA 8) / 感想・レビュー
遥かなる想い
異母弟殺しから大阪の刑務所を出所し、 紀州新宮に戻った男 竹原秋幸の物語である。 龍造と秋幸の 父の子のあり方を軸に、 著者の主題である「路地」「土着」の雰囲気は 健在で、血の匂いがひどく生々しい。 三部作の最後は 予想とは裏腹に あっけない幕切れだった。
2020/03/21
chanvesa
『枯木灘』の緊張感の方が好みである。憎しみの根源が「血」であったことから、負のエネルギーはいかなる場合にも持続するはずなのに、「路地」が消えることで、浜村龍造も秋幸もそのエネルギーを失っていったかのようだ。父親に対する忌避の感情が、自身の年齢を重ねていくことで薄れるのは、ある程度のレンジで父親をトレースしてしまうことに気づくという情けない理由で、エネルギーを拡散させてしまうのか。大逆事件や謎の宗教など、作品のスケールは巨大であることに入り込めなかったのは、拡散という印象を拭えなかったことに拠るのだと思う。
2018/10/14
nina
異母弟を殴り殺し3年の刑期を終え帰郷した男を待っていたのは解体され雑草の生い茂る空地となった路地と息子をもう一人の息子に殺された男の父だった。殺されるべきなのははたして父なのか、自分なのか。傷から噴き出す血潮のように路地跡から湧き出る水に群がる女たちと、まるで古来より続いた路地の営みであるかのように空地に火を放つ男たち。水と火の相克が路地の底に沈められてきた恐怖と憎しみのこもった叫び声を繰り返し響かせ、人々を狂わせる。路地の幻影と狂気を神の意であるかのように大火がなめ尽くすラストに震えが止まらなかった。
2014/07/30
みっちゃんondrums
木材、下草、あばら家、炎、血、男、女、それらのにおいがプンプンする小説だった。確かに神話なのかもしれないし、戦後史でもあり、日本の民俗を語ったものでもある。本妻以外の女から生まれた男が、実の父親を乗り越える。その父親がとんでもない悪党。悪には悪ということか。紀州という特別な場所の、特殊な境遇のようだが、この国のあちこちにあった話とも言える。方言が読みにくかったけれど、まだ無法地帯も残っていたであろう1970年代あたりを感じる、ある意味ノスタルジックな読書体験だった。
2019/08/02
ハチアカデミー
S 本作はまさに「存在と非在とのっぺらぼう」である。主人公秋幸にとって、父・龍造は不在の主であった。そして父の両隣には、片腕として悪事を行うヨシ兄と、黒幕としての佐倉が存在した。この四人と、徹、鉄男といったわき役たちが、失われつつある「路地」というトポスを巡り、対立しあう物語。『枯木灘』では姿が見えないが故に大きかった父の姿、知らぬが故に縛られていた路地の歴史のベールが本書によってむき出しとなる。もはや、秋幸の前に敵はいない。己の中の葛藤だけがある。紀州サーガの集大成に相応しい壮大すぎる物語である。
2012/09/26
感想・レビューをもっと見る