幼年 その他 (講談社文芸文庫 ふC 8)
幼年 その他 (講談社文芸文庫 ふC 8) / 感想・レビュー
michel
★3.0.記憶・追憶・忘却・意識と幻想との往来で幼年期と対峙する。
2020/09/13
月
愛する妹よ、いとしい子よ、行こう、二人して暮らすために、のどかな愛と、愛と死と、お前によく似た遠い国に。霧の空には、濡れた陽は、お前の涙のかげにかがやく、移り気な眼の、不可思議の、魅力のように、わたくしを焼く。そこにすべては整いと美と栄華と悦楽と静けさと。運河のほとり、船は眠り、さすらいの旅の想いをのせながら、お前の望みに、つくすために、船は来る、遠くこの世の極みから。沈む日のもと、野と運河と、すべての街はあかねの色に、こがねに燃える。世界は眠る、このあつい光のただ中に。
2015/02/10
endormeuse
表題作の『幼年』がとりわけ鮮烈。記憶のイマージュを丹念にかきわけるようなセンテンスを連ねていく文体が特徴的だが、あたかもそうした意識の流れが時間の継起性ごと切り裂かれるように、句点を待たない改行が視点変更を伴いながら唐突に侵入する。記憶の断片はついに確固とした像を切り結ぶことなく、追憶の対象となるべきだった多くの出来事が忘却の底に沈んでいることを知り、呆然と立ち竦む・・・実験的な形式の上に主題を見事に表現しつつ、劇的なポエジーを生んでいる。
2019/07/13
よしひろ
ある種の孤独を漂わせた、静かな文章で書かれている。福永武彦の描く孤独は、生きることと切り離すことはできず、人間の宿命のようなものに思える。
2014/05/10
るな
「幼年」は、幼くして母を亡くした作家が、懸命に幼年期の記憶を手繰り寄せたもの。その記憶の中にあるほのぼのとしたぬくもりや無垢な少年の面影は、ほほえましく、健気だ。現在と過去との対話、不可能な愛、死への願望、虚無、悔恨、退廃、孤独、戦争と病気という悪との対峙、美への憧憬など、福永文学のモチーフが散りばめられた短編集。こうした短編の集積として長編が成り立ったような気がする。
2017/01/23
感想・レビューをもっと見る