妻を失う 離別作品集 (講談社文芸文庫 こJ 36)
妻を失う 離別作品集 (講談社文芸文庫 こJ 36) / 感想・レビュー
メタボン
☆☆☆☆ 江藤淳「妻と私」に感銘した。妻と最後に過ごす「死の時間」の日々。江藤は自らも死ぬぎりぎりまでに妻と死の時間を共有する。日常から離れたその時間は、言葉はなくとも深い共感の中にあった。夫婦の心情がたどり着く最終形態だと思わずにいられなかった。有島武郎「小さき者へ」はやはり名文。三浦哲郎「にきび」娘たちとの会話は飄々としているが、顔面にできたにきびという些細なことから、妻の死を実感する。原民喜「死のなかの風景」妻の死に哀切を感じるのと同時に自らの死の暗い予感が漂う美しくも不気味な作品。
2019/10/23
みねたか
妻との離別に関する九つの作品。藤枝静男の「悲しいだけ」に惹かれ手に取ったが、有島武郎「小さき者へ」、横光利一「春は馬車に乗って」、高村光太郎「智恵子の半生」と珠玉の作品ぞろい。特に江藤淳の「妻と私」は、告知をしないという責任を引き受け、死にゆく妻に全力で寄り添う覚悟にうたれた。その矜持は、自らも死に囚われる寸前まで心身を追い詰める。巻末、富岡幸一郎の解説もそれぞれの作品の味わいを深めてくれる。
2016/12/31
ume-2
最初は何かを共有したくて読み始めたのだった。共感できた文章もあれば相容れないものもある。死を目前にした妻と「替わってやりたい」という思いもよく理解できるし、目前の瀕死から逆に自己の死を畏れる「罪悪感」もわかる。皆悲しみを静かに、そしてわが身を恥じ入るように語る。やはり別離を覚悟しつつ伴侶に接する藤枝静男さんと江藤淳さんの著作が心に沁みる。こんなもの共有してどうするのかと自分を嗤いつつ、やはりそれに救われる部分もある。辛口で知られた江藤淳さんの「手記」は、愛情に満ちている。このあと彼は妻の後を追っている。
2015/09/29
きつねねこ
江藤淳氏の「妻と私」に圧倒された。彼の自死の理由について軽々に判断することはできないが、やるべき仕事もあり周りに支えようとしてくれる人もおり、何とか生の方向へ自分を駆り立てようとするも、やはり妻を亡くした喪失感が彼の気力を静かに決定的に奪ってしまったのではないか‥と思える。いつか必ず自分と夫にも訪れる永遠の別れは、どのような形になるのだろうかと思ってしまう。今はまだ想像することさえできないのだが。
2020/01/23
ピラックマ
印象に残った箇所、横光利一:妻の好物だという鳥の贓物(モツ)のテラテラ感、江藤淳:鎌倉文人らしい生活のディテール。自己に跳ね返って来た死の時間、迫真!壮絶。清岡卓行のは余りの自己中っぷり勘違いっぷりに辟易するが意図的にやな奴として書いてるなら成功。
2014/11/25
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