明治深刻悲惨小説集 (講談社文芸文庫 こJ 40)
明治深刻悲惨小説集 (講談社文芸文庫 こJ 40) / 感想・レビュー
みつ
読み友さんのレビューに導かれて読んだこの本が登録800冊目。10作のうち鏡花『夜行巡査』と一葉『にごりえ』以外は初読。文語混じりの地の文と会話を分けず延々続く文体は、以降の時代のものと随分異なるが、日清戦争後の社会矛盾の苛烈さは、この文体でこそ畳みかけるような勢いで迫ってくる。集中『夜行巡査』のみは虐げる側の視点に立つが、「正義」の観念に囚われた末の結末に鏡花の肉声が聞こえるよう。他の作品では被差別民の置かれた境遇に怒りが迸る2作も印象的だが、なんといっても、身勝手な男の振舞いに窮地に立たされていく➡️
2023/11/02
SIGERU
明治期の日本を覆っていた暗黒を、とことん堪能できる異形のアンソロジー。感銘は鋭いが、続けて読むと気分が落ち込むので、服用注意の劇薬めいた一冊だ。深刻悲惨といえば仰々しいが、今で云うところの問題作。明治20年代に勃興した文学機運を総称したもので、社会の不条理を糾弾する若い才能が、文壇に清新の気を捲き起こした。のちの文豪たちの初々しいデビュー作を多く読めるのも嬉しい。輯中、樋口一葉『にごりえ』、泉鏡花『夜行巡査』は別格。気禀の高さは、まさに群鶏の一鶴だ。ここでは、その他の作品について縷述したい。
2022/02/11
刳森伸一
紅露時代と自然主義文学に挟まれた時期に描かれた、貧困や差別をテーマにした悲惨小説を集めたアンソロジー。あまり陽の目を見ない悲惨小説を集成しているというだけで価値のある本だが、内容も非常にいい。華麗な文体に目を奪われがちで、ややもすれば他の作家や時代とは隔絶した存在かのように語られる樋口一葉の「にごりえ」なども、「悲惨小説」という文脈に置いてみると、その中に潜む苦悩と時代性がよく分かる。ただ、本作の白眉は有名ではない作家の作品が読めることにあり、それらがまた、胸にくる佳作ばかりで驚く。
2020/12/18
水無月
時代がどんな風に変わろうと、一向に構わず足元に粘りつく貧困、差別、果てに待つのは望まぬ死や自我崩壊。当時若手だった作家達が、その時代に何を見て感じ、どう表現しようとしたのか、その熱量に当てられて一気に読んでしまった。解説にリズミカルな文体とあったが、正にそんな感じで、文の合間に拍子木が聞こえそう。しかし一篇だけでも充分に重いのに、何もまとめてくれなくても…。と思いつつ、ページをめくる手が止まらなかった。
2019/12/02
せっぱ
初出明治27~29年の作品集。語り口によっては読みにくく感じるものもあったが通読するうちに慣れた。海外への出稼ぎ,竹橋騒動,江戸から続く身分差別、自死、心中の方法など明治期の人々が同世代性を感じるテーマが興味深い。広津柳浪のドラマチックな展開や,樋口一葉「にごりえ」のヒロインお力の心情に肉薄する描写が印象に残る。女性の純潔をめぐる過酷な展開は,それが常識とされた時代とはゆえ,とても歯痒く感じられる。田山花袋初期作「断流」は全集未収録とのこと。
2017/04/22
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