幽 花腐し (講談社文芸文庫 まJ 2)
幽 花腐し (講談社文芸文庫 まJ 2) / 感想・レビュー
はるを
🌟🌟🌟☆☆。全6編の短編集。映画『花腐し』鑑賞後に読了。映画と原作の違いを愉しみながら読み終えられたのでこの作品が一番良かった。『無縁』も良い。『ふるえる水滴の奏でるカデンツァ』も印象的。つまんなくはない。でも一番近い気持ちは「難しかった。」かな。主人公がクズ男やゲス男の話が多いんだけど、(気持ちは解る。笑。)なんだが高尚な文章を読んでいる気がするとは思った。水鏡に映った風景を見るような話。夢か現か。再読の必要あり。
2023/12/22
メタボン
☆☆☆☆ 「花腐し」「ひたひたと」は既読なのでスルー。注目すべきは「幽(かすか)」。この淡いさ、朧さは尋常ではない。生きているのか、既にこの世のものではないのか、譲られた住まいは流体のように形を変えているのか、いずれも曖昧で、その幽けさを表現する文章が気持ちよくも凄まじい。そう、松浦寿輝の文章は、古文で言うまさしく「すさまじ」なのだ。「無縁」「ふるえる水滴の奏でるカデンツァ」「シャンチーの宵」も佳品。
2020/11/25
空猫
【第123回芥川賞】『暗黙グリム童話』の「BB/PP」から。バブル後の平成の物語なのに、読んでいて昭和のそれも退廃したモノクロ映画のようだった。そして官能的。全ての物語に汗、湿気、水たまり、雨、といった水のモチーフがあった(『花腐し』とは花が腐る程続く雨の意)。それは何処にも根を下ろさないでゆらゆらと生きている彼らの暗喩だろうか。数行続く長い文章も。墜ちていくだけの男にそれでも見捨てず包み込む女。生活感、活力、そういったモノは一つもないのにひどく生々しい人間模様。そんな一冊。お気に入りは「無縁」
2020/11/12
ちぇけら
午睡の後に女を抱き寄せて軀をそっくりと剥くと、女は魚になった。夜の空気には影が充満している。女からもれる高い声と痺れに似た疲れがおれを満たす。花の朽ちるにおいを襞の奥に嗅ぎつけて、ペニスは心臓のように脈をうった。おれはいつまで陰茎と女陰に縛りつけられて、翳りのなかを生きていくのだ。新宿という廃墟の安ホテルのスプリングが、いつまでも耳の奥で鳴っている。蝶の羽が燃えたような朝焼けで、暗闇に慣れた眼が眩む。おまえだけがおれを赦してくれた。ウイスキィで渇いた口を湿らせ、今日も死者の行進に混じって、生きていくのだ。
2021/08/09
踊る猫
活字が頭に入らないコンディションでふと手に取ったのだけれど、スルスルと読めてしまうことに驚いた。あやふやな、なにを書いてあるのか良く分からない、それでいて読んでいることそれ自体が快楽であるかのような読後感……読みながらうっとりさせられてしまった。マッチョイズムとは無縁の情けない男たちと、妙にこちらを誘う官能的な女性たちが織り成すダメ人間のための小説集。吉田健一を読んでいるかのような気分になってしまった(過褒か?)。恐らくそう遠くない時期に私はこの本を読み返すだろう……内容をさっぱり忘れたのだから(失礼!)
2017/01/25
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