森の家 (講談社文庫 ち 8-1)
森の家 (講談社文庫 ち 8-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ほぼ均等な3つの章からなり、各章はみり、まりも、聡平とそれぞれの一人称視点で語られる。換言すれば、語りを担当しない章においては、自分が相手にとっての客体であるということになる。「家族の物語」といえばそうかもしれないが、これは極めて尋常であないそれである。みりは闖入者であるし、本来は核となるべき聡平は漂泊者、すなわち徹底して責任を放棄した位置に身を置こうとする。3人の中で、もっとも女性的な(古典的な意味で)役割を果たすのは、20歳の青年まりもである。すなわち、定住者であり、徹底的に「待つ」存在としてである。
2018/06/20
あも
暗く湿った郊外の、ひっそり佇む森の家。そこに居る"普通ではない"家族の物語。モテるけど何にも執着を持たない40代の佐藤、恋人で30代のみり、(たぶん)佐藤の息子で19歳のまりも。バラバラになる以前に、みり→佐藤以外は矢印すらない希薄な関係が佐藤の失踪で動き出す。フワフワと足下の覚束ない話に退屈さを感じたが、少しずつ印象が変わっていった。森の奥の誰も知らない湖の底に堆積したあれやこれ。さざ波すら立っていないように見えても何の変化もしないことなんて不可能だ。ただ生きているというそれだけで。"普通"なんてない。
2019/03/10
nico🐬波待ち中
千早さんの家族観はやはり他とはちょっと違う。家族なんて形になんか囚われなくていい、正しい場所でなくてもいい。そんな風に静かに、でもキッパリと言われた気がする。血の繋がりとか世間体なんて考えない。互いのことに干渉しないし束縛もない。年代もバラバラな男女3人が緑に囲まれた古い家で共に自由に過ごす。そんな3人の間のバランスが崩された時、初めて途方に暮れる…。近すぎて気付けなかった互いの寂しさを受け止める3人。フワフワしていて本心がなかなか掴めない3人だと思っていたけれど、3人なりの答えに到達できてホッとした。
2017/05/30
ワニニ
恋人といても寂しい。家族といても寂しい。でも、ひとりでいても寂しい。諦めることも出来ない。いつも何かを探している感じ。そんな感覚と、深い森、あおい湖なんかの描写が透明感ある雰囲気で、すうっと世界に引き込まれてしまう。家族とは何なのか?「普通」「正しい」というのは何だろう?自由気ままな振りをして、自由にさせて、本当はがんじがらめなひと達の集まり。でも新しいかたちの家族として、ぼんやりとだけれど光が射してくる。かけがえのなさを認められるようになったから。実はとても“人間”ぽい物語だったのだなぁ。
2016/02/29
いたろう
佐藤さんと佐藤さんの息子ということになっている、まりも、佐藤さんの恋人、美里。他人との距離の取り方が下手な三人の、互いに干渉せず、風変わりなバランスを保っていた同居生活は、佐藤さんが急に家を出ていったことで終わりとなるかと思われたが・・・。佐藤さんの不在で、美里とまりも、二人の間に生じた不思議な結束感は、不在の佐藤さんを含めた家族というものを模索する姿なのか。美里、まりも、そして不在の佐藤さん、三人の視点から描く、それぞれの家族の記憶と現在を結ぶもの。その先にあるのは、新たな家族の姿なのかもしれない。
2017/12/21
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