燃焼のための習作 (講談社文庫 ほ 29-3)
燃焼のための習作 (講談社文庫 ほ 29-3) / 感想・レビュー
KAZOO
3人の登場人物たちがただひたすら雑談めいたことをしゃべっているだけなのですが、なんか引き込まれてしまいます。それぞれ事務所を構えている何でも屋みたいな人物とその助手のような女性、そこに何かを相談をしに来た正体がはっきりしない人物です。インスタントコーヒーと角砂糖にこだわりがあるのが笑えてしまいます。取り立てて事件があるということではないのですが、会話の内容が結構日常のどこにでもあるような感じで自然に引き込まれてしまいます。不思議な小説です。
2015/12/16
コットン
豪雨の中、探偵と助手と依頼者という三人によるゆったりとした会話が進む物語。読者はそのゆったりした会話の確かな表現力を静かに楽しみながら読み進める。その表現力は例えば「音だけはすっと耳に入って、鼓膜の奥に沈んだんですよ。」 そして、おそらく著者の堀江さんも楽しみながら書かれているのだと感じる。
2021/08/21
絹恵
珈琲と角砂糖が溶け合うように、記憶と心に寄り添うにはどうすればいいのだろう。それは受容よりも、共感的理解よりも、まあるい空気を孕んでいる。でももしかしたら特別なことではなく誰しも、春の花曇り、夏の炎色反応、秋の夜長、冬の灯、たくさんの記憶を燃やし尽くしてでも、取り戻したい記憶をもっているのかもしれない。私たちは言葉によって消えない記憶を求めている。この熱で雨粒が見えなくなってしまっても、そして止まない雨はないのだとしても、今は未だこの雨のなかで記憶の雫を掬っていたい。
2016/03/26
chanvesa
雑談小説。こんなことが成り立つなんてすごい!「枕木にとって、他者の話に耳を傾けることは、自分の記憶の声を聴き取ることに等しい」(176頁)と言うのであれば、枕木さんを中心とした三人は、会話という対位法ではなく、お互い緩やかな孤独なやり取りをしている気がする。この会話の外にいる枝盛さんは怪しいながらも人間に対して関わっていく。それが饒舌な流れの中で、浮かび上がってくる。ツナのパスタはおいしそうだが、なぜかこの人たちの中で食べる気があまりしないのである。やたらとがぶ飲みされるインスタントコーヒーのせいか?
2016/12/19
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
探偵事務所(兼便利屋)を営む枕木。メタボ体型、頭髪は薄め。粉の細かいネスカフェのインスタントコーヒーとスプーン印の角砂糖とクリープの“三種混合”を愛する男。秘書の郷子さん、妻子の行方を捜そうと訪ねて来たものの「よくわからなくなった」という客人。激しい雷雨で外へ出られなくなった3人。“ではおたがいもう少し言葉を費やしてみましょうか” 枕木の言葉に会話は始まり、飛躍し、脱線し、また本線に復活する。途中の電話や腹痛などで中断し、それでも雨はやまず会話は続く。なんだか、読み終わって会話は旅のようだと思う。
2016/04/21
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